大企画【魔王城地下100階ダンジョン】開催!!


『ワシは、魔王シリウスである』

 

 画面の中の、世界一のMyutuber発明王・ギルド……

 改め、魔王シリウスは、確かにそう名乗った。


「お前ぇぇええええっ!!」


 勇者アレクは激怒していた。

 唾を吐きかけ、飛び上がるように立ち上がり、拳を振り上げ、

 画面の向こう側へ届かんとする勢いで、私のスマホに向かって渾身の右ストレートを……


「だめぇぇえええっ!!」


 私は慌てて、スマホを守るべく身体を張った。

 これは私のスマホだ。命よりも大切なものなんだ。


「うぎゃっ!!」


 アレクのパンチが、私のおしりを勢いよく叩き上げた。

 衝撃が骨盤を軋ませる。めちゃくちゃ痛い。ビリビリする。

 おしりを思い切りブチやがって、私が変な性癖に目覚めたらどうしてくれる!


「す、すまんアリス……だが、そこには魔王がいるんだぞ! 早く逃げるんだッ!

 その魔道具、たしかスマホの中に、魔王シリウスが!?」


 アレクは汗びっしょりで慌てふためき、混乱しているようだった。


「落ち着いておじいちゃん。 スマホのなかに魔王はいませんよ!?

 遠隔からの、情報送信だって、何度も言ってるじゃないですか……!」


「あぁ、なるほど、今理解した。

 そのスマホという魔道具は、遠くにいる誰かの声と姿を、ここに繋げて映し出すことができる道具なのだな。

 すまん……俺は馬鹿だから、まだよく理解しきれてなくて、

 アリスのおしりを殴ってしまった。痛かったか?」


 アレクは申し訳なさそうに私のおしりに手を触れて、たしかめるように優しく撫で回してきた。


「な、撫でないでください気持ち悪いっ、この変態勇者ッ!」


「あ、ごめ、無事かどうか心配になったんで」


「結構です。私のおしりは意外と無事でしたから、

 ほら、今は一緒に魔王の配信を見ましょうよ」


 私はアレクの隣に座り、小さなスマホを覗き込み、二人してスピーカーに耳を近づけた。


 

『ワシが魔王だと、正体を明かした理由は他でもない。勇者アレクの封印が解かれたからだ。

 今まで私の発明王ギルドとしての活動は、すべて地声でやってきましたからね。

 勇者アレクが声で私の正体に気づくのも時間の問題、ならばもういっそ、正々堂々と打ち明けることにしたのだ』


 60年前、殺されたハズの勇者アレクと魔王シリアスが生きていた。

 世界に周知される事実に、

 同接670万のコメント欄は、

 いやこの世界は、興奮と不安に包まれて膨れ上がっていく。


「あれは10年ほど前。

 勇者アレクと一緒に封印されていたワシは、苦節50年! ついに封印魔法を無効化したのだ!

 そしてワシは、勇者アレクを無限殺戮マシーンに閉じ込めてから、魔王城を静かに抜け出

 蘇ったワシの目的は、人類の殲滅。

 最初はただそれだけだった。

 しかしワシはすぐに、恐ろしい事実に気がついたのだ……』


「恐ろしい事実、だと?」


 勇者アレクが睨み殺さん鋭さで、画面にむかって反芻していた。


「それは現代魔法文明である。……魔族の脅威が無くなった世界で、人類は、凄まじい高度な魔法技術成長を実現していた。

 ……島を消し飛ばすほどの爆破魔法兵器。位置情報共有装置、無数の無人魔導戦闘機……

 新しい世界で、時代に取り残されたワシは、雑魚同然であった。

 一般人の護身携帯用の武器ですら、旧魔王軍四天王クラスの魔族を一瞬で完全無力化できるほどの機能が備わっていた」


 私は、え? と驚いていた。

 たしかに、対非人護身用グッズは100均ショップでも売ってるけれど、

 まさかそれほどの力があるなんて!

 

「魔族を反映させて軍を率いる従来の戦略では、全く刃が立たないと知った私は、魔王城の地下に秘密の研究所を作ったのだ。

 そこで私は、人間の魔法技術の研究に明け暮れた。人間技術を駆使してモンスター兵器を作ってきた。

 地下へ地下へと空間を広げながら、私はここに人間を滅ぼすための改造モンスター、殺戮兵器を作り続けてきたのだ。

 しかし、だ。また残念なことが起こったのだ……』


 シリウスはまた、失望の顔で、がっくりと肩を落とした。

 

『ワシは、時代の先を行き過ぎてしまった。

 魔法技術向上に夢中になりすぎて、ワシは強くなりすぎてしまったのだ……? これを見よ』


 強くなりすぎた? 魔王にとったらいいことじゃないか。

 と、私は思った、のだが……

 バサリと赤い布が払われて、現れたものは…鉛の塊だった。

 

『これは、【星破壊爆弾】である。

 このボタンをポチッと押せば、この星ごと、人類全てを滅ぼすことができる……

 他にも人類滅亡の方法は沢山ある

 【改良型感性ナノウイルスζ】【統合意識式コンピュータウイルスAKUMA】【魔導合体戦士ピタゴラス】……数えだしたらキリがない。

 だが、これらの方法には致命的な弱点があった」


 魔王シリウスは、はっと言葉を止めた。

 そして、鼻をふんと鳴らして言った。


「つまらない。

 簡単に勝てるゲームはちっとも面白くないのだ。

 ワシの望みは、互いに緊張感をもった命と命を削る戦いだというのに……

 ボタンひとつ押せば人類を全滅させられるゲームなど、誰が望む?』


「お前を殺せるボタンがあるなら、オレは喜んで押すけどな……!」


 私の隣でアレクが言った。

 

『暇つぶしにVtuverを始めて、人類が知らない魔法技術を紹介して発展の手助けをしたり、暇つぶしに作ったRPGゲームを販売したり、人類の誰も知らない小粋なジョークで視聴者を沸かせてはみたのもの……

 どうにも、なぁ、少しは楽しかったけれど、ワシにとっては物足りない毎日じゃった……」


 えぇ。ぇぇ……

 私の尊敬していたmyutuber、発明王ギルドを、暇つぶしでやっていたというの?


「だが、時代は大きく動いた。

 勇者アレクは、魔術師の卵アリスに助けられて、ワシの家をダンジョンと間違えて入り込んで来やがった」


 え? え? え?

 魔術師の卵アリス……って。

 推しだった男性Vtuberの声で、名前で読んで貰えるなんて、

 私はなんて幸せものなんでしょう!


「……今、ワシの家と言ったか? ここがシリウス、お前の家だと言うことか!!」


 アレクは周囲をぐるぐると見渡しながら、スマホに向かって叫びかけた。


『あぁそうさ。勇者アレクよ。今お前の居るその場所は、ワシの家の地下一階じゃ』


「え?」

 

 会話が、成立してる。

 

「オレの声が聞こえてるのか!? つまりシリウスお前は、この近くに居るってことだな!?」


『ああそうさ。お前の足元のその先にな。

 10年せっせと築き上げた。ワシの秘密基地は地下100階だ。

 魔王シリウスは地の底、地下100階にて、英雄の到来を待つ」


「地下100階!? ヒマなのか!? バカなのか!?」


 魔王シリウスは、ニヤリと広角を釣り上げると、バッと大きく両手を広げた。


『これより魔王考案大企画【魔王城地下100階ダンジョン】を開催とする!

 平和な世界に退屈した人間どもよ。命知らずのバカどもよ!

 ワシの作りし狂気のダンジョンに挑むがよい!

 ルール無用の全人類参加自由、配信自由、ただしダンジョン内では、スマホに搭載された標準アプリ以外の高度魔道具は無力化される仕様となっている』


 地下100階ダンジョン……!


 私は、全身から血液が沸騰しそうになるのを感じていた。

 ああこれは、これこそが運命だ。


『……以上で、【魔王城地下100階ダンジョン】企画説明を終了する。質問等はコメント欄にまとめてくれ。できる限り次の動画で触れたいと思う』


 魔王シリアスは短く言い切ると、ライブ配信を終了した。

 しかし、コメント欄はとどまることをしらなかった。


「うぉぉぉぉぉおおお!」

「まじ」

「あああああああああ」

「シリウス様♡♡」

「ちょっとカバンに荷物詰めてくる」

「体力ない奴しか無理じゃんクソゲー」

「100階って、どんぐらいの規模感?」


 これが、世界ががらりと変わる瞬間。

 そしてその渦中に、たしかに私も存在しているのだ。


「この下に、魔王がいるのか……!」


 アレクは、足元を睨みつけて言った。


「……オレは、魔王に会いにいかなくちゃいけない。アイツの息の根を止めなくちゃいけない。

 そうでないと、ミナに、みんなに……顔向けできない……!」


 アレクは、拳と瞼をギュッと閉じた。

 それは硬い硬い決意だった。


「……アレクさん。私と一緒にパーティを組んでください」


「……ん」


「……私と一緒に魔王を倒すんです。このダンジョンを攻略するんですッ!」


「……ふっ、あはは、どうしてそんなに元気そうなんだよ……」


 勇者アレクは、私の興奮っぷりに呆れたようで。


「いいぜ。組んでやる」


「ほ、ほんとですかーー!? やったぁぁっ! そ、それではMyutubuerのほうも一緒にやりませんか!?」


「アリスのやりたいことに従うよ」


「はい、ありがとうございます」


「あぁ、でも一つだけ……」


 アレクが振り向き、きれいな瞳で私のほうを見た。


「恋人になる、なんてのは勘弁な。オレには一生一途な女の子がいるから……」


「はっ、ばっかじゃないですか! 自意識過剰すぎです!

 私があなたのことを恋愛対象として意識するなんて、ありえないですから! 

 そちらこそセクハラしないでくださいよ変態勇者!」


「だーれが、お前なんかの身体に、興味なんて……いや……」


「ついさっき、おっぱいしゃぶらせてくださいって言われた気がしますが……

 アレは夢か幻ですか?」


「い、や……わ、忘れてくれよ」


 アレクは、困り眉で頬を赤く染めて悶えていた。可愛い。




【配信終了】



 魔導池量が減ってきたから、充電が必要なので、私は仕方なく配信を切った。


 ゴブリンの巣から、溜め込まれた木の実や魚などが大量に出てきたので、

 アレクに毒見をしてもらいながら昼食をとることにしたのだ。


「チャンネル名は……【アリスとアレクの殺戮ちゃんねる!】……これでよしっ!」


 リスナーさんがまとめてくれていたチャンネル名候補から、しっくりくるものを選び抜いた。

 全体としてはひらがな多めのポップな印象、わかりやすい王道タイトル。

 そこに唯一「殺戮」という物騒な単語がスパイスとなり、人を引き付けるキャッチフレーズとなるのです。


 【魔王シリウス】(※旧【発明王・ギルド】)チャンネル様の口から、チャンネルが紹介されたこともあって。

 現在私のチャンネルは、爆発的に登録者数を増やしているようだった。

 充電前に見た時は149万人だったけれど、きっともっと伸びていくだろう。


 

 魔王シリウスの宣言は、この世の命知らずの若者たちを、ダンジョンへと駆り立てた。


 平和な世界に残された。唯一最後の難関ダンジョン。

『魔王城地下100回ダンジョン』


 魔王からの挑戦状を握りしめ、

 人類は愚かにも、再び生と死が隣り合わせの冒険へ、自ら赴いてゆくのだった。


(続く)



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(あとがき)

大晦日ギリギリに書き上げて投稿!

次回から次章突入予定!

良いお年を!

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