「夢の中でもあなたに会いたい」
うさぎパイセン、オーナーはもうダメだ。
夢は見るもの叶えるもの
ざく、ざく。
足音を立てて彼は1人広大な雪の大地を歩んでいた。
ざく、ざく。
辺りは白い。白夜と言う。北極圏で何日も夜が来ない日がある。それを日本の言葉で白夜と言うのだ。白い夜。
もちろん、勇者が住まう、こちら側の世界ではそんな名で呼ばれていない。名は無い。
なぜか。
「我が君…」
眠る悪徳。全ての災い。
そう呼ばれて。滅すことができないで眠らせられた、女性。勇者が今歩いているこの地が彼女の横たわるゆりかごだからだ。
災いが含まれたゆりかごなど誰も名などつけない。
災いを、名付けようとするものもいない。
勇者も、彼女の名を知らない。
「我が君」
彼が吐く息は白く、彼女がまどろむゆりかごも白い。
ゆりかごの塔だ。それは白い塔だ。
ゆりかごのように、穏やかに在る。
白い、負の遺産。誰もがなくなることを願う、世界中からたった一人を除いた、嫌悪の象徴。
「 く る な 」
そう悲痛な声がゆりかごから聞こえた。
勇者は無言で魔法杖に付いているオリハルコン製の留め具を抜いた。落ちるラグーン製の杖鞘。現れる漆黒の刃。仕込み剣だ。退魔の剣。
戴剣の儀に王から託された吐き気がする言の葉。
白き悪魔に対しこの黒き剣で全てを終わられよ。
誰が終わらせるか。誰がきみを、
「おあいしとうございました。わが、いとしききみ」
終わるのはお前らだ。
そう吐き捨て、勇者は。
白き愛しいゆりかごを。
「い い の 」
ゆっくりと。ふわりと羽のように舞い降りて。
そう微笑んだ、彼女は。
自ら、自身の胸に剣を突き立てたのだ。
「…で?」
「うん。やっぱりさ。人間、こう綺麗には終わらないよね、って話。」
「…そりゃ、そうだよ、バカだなあ。わか。」
のんびりと幸せに白い夜は幾度も来る。
隣で苦笑してる彼に、わたしはちょっとむくれた。
「もー!わかって言わないでよ!はずかしい!」
王様はやっぱり国を統べるだけあって。
大人のやり方というものを熟知していたのだ。全くお恥ずかしい限りだよ、本当。
わたし、名も無き「まおう」と呼ばれていたわたし。
現今お隣で「英雄」と職業勇者から役職が上に据え置かれた彼に与えたのは「退魔の剣」。
そして、わたしは役職「まおう」。
まおうとは、災い。世界を滅ぼすもの。
しかしわたし自身はなんの力もないの。ほーんと、お箸より重いものなんて持てもしな…や、あと10ヶ月経つとお腹からでてきたお米一袋分の幸せ抱えちゃう予定なんだけど…。このひといろいろ実行力ありすぎるよお!
で、そんなわたしがなんで「まおう」として扱われ、封印されていたか。
…ぶっちゃけ単なる不運でしかないんだってさバカみたい!そこだけはほんとにバカって言っていいよね?
なんでも、東の遠い国でやってる風習と同じ意味を持つらしく。確か…ニホンかな?そこに民俗学という学問があるらしいんだけど、その学問では昔の人は地震なんかの「自然災害」を【妖怪】という架空のモンスターに当てはめて「アレは妖怪の仕業だから」といった理屈で人々の弱った心を何とか収めてたらしいのね。
で、それが酷くなると【神様】【荒神様】【怨霊】【祟り】みたいに色々枝葉が別れていくみたい。もちろん生きてる人も対象にされて、酷い目にあったり逆に「生き神様」みたいな扱い受けてだいじにされたり、とか。
まあ、それをやられたのがたまたまわたしだったと…。
ちょっと酷くない?いや、もう隣で笑ってるすごい素敵な旦那様の血を繋ぐことが出来ちゃったからさ、お釣りくるくらいの不運だよ、バカ!
そして王様は対話の泉に立ってこう言ってた。
〖 災いに名をつける。名には身体が必要だ。そしてその名を「ころす」名を持つもので「ころした」。 身体は残る。名は死ぬ。つまり、災いという「まおう」は死ぬ。身体はもう「まおう」でなくなる。 〗
…屁理屈うっ!
でも、ひとは屁理屈でもすがらないと生きていけない時もあるのはわかってる。だって、隣の人。
わたしのこと夢で見て一目惚れしてここまで来たってバカじゃん!わたしもたかが夢であなたに会って惚れちゃったから自分で自分に剣突き刺したんだからお互いバカですね!
その、退魔の剣ですが。
ええ。わかってますよね。オリハルコンとかだれがふかした。
単なるハリボテですよ最高級の神の品!
そりゃあ単なる人間に刺さるわけないよだってコレ魔を退ける剣よ?わたし魔じゃないもん。単なる健康なヒトの成人女性を斬れる性能なんてありゃしませんて。
ちょっと大人の汚さ…いや、多分あの賢帝でなかったらわたしは死んでた。普通に火あぶりで死んでたからさ、汚いとか言っちゃダメよね。ごめんね。
頭を抱えてたらその手ごと頭をぽんぽん笑顔で撫でてく隣の勇者様にお返しの笑顔ひとつプレゼント。
「ご飯にしよっか!あなた、何食べたい?」
「きみ」
「ばかっ!それは、また1年後ね。今度は双子を産む夢ができちゃったから!」
「ぼくもきみを食べる夢を見つつ、早く夢の結果にも会いたいかな」
笑って、いい夢を見よう。
…ん?何?最後?夢の最後にこのひとの名前も教えてって?やーだよ、わたしだけの勇者さまなんだから!
そろそろ起きなよ!
夢は叶えるためにあるんだから!
今日もおはよう。いってらっしゃい!
【皆さん、良き一日を!】
「夢の中でもあなたに会いたい」 うさぎパイセン、オーナーはもうダメだ。 @shinkyokuhibiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます