◆18 お祭りの夜
夜の風が顔に当たって散る。今日も暑かったが、暗くなってからは少しマシだった。自転車をこぎながら、
ネルの神様が助け出されてから一週間。大輝の母もかっちゃんも街の人も、すっかり元の生活を取り
「全部、終わったんだな」
そうつぶやく。こわい思いもたくさんしたけれど、仲間やお守りたちといっしょにネルの国を
「ダイキくーん!」
だんだん人が増えてきたので自転車からおり、
「大輝くん、こっち!」
人ごみの中にようやく声の
「おまたせ! けいとは?」
「まだ、来てないですぞ」
「あいつん
いつもの公園。でも暗い空の下で明るい屋台がたくさん
「お父さんが帰ってきてるらしいし、色々あるのかも」
あさひの言葉で、大輝はお祭りに行こうと話した日のことを思い出す。
「そっか。まぁ、来るって言ってたし、そのうち来るだろ!」
三人は、歩いている人たちをながめる。中には
「……悪い、
それからしばらくして、啓斗がやって来た。
「これ、あげるよ」
「ありがとう」
啓斗はすなおに受け取って、ジュースをごくごくと飲む。
「お父さん、
「……今日はちょうど
一息つくと、啓斗は言った。
「でも勉強もちゃんとしてるし、成績だって落ちてない。今日の分は必ず取り返すから、友だちと祭りに行かせてほしいって言ったんだ。そしたら、すごくおどろいた顔してたよ」
使いなれない【友だち】という言葉を口にした啓斗は、少しはずかしくなってそっぽを向いた。それにつられて、みんなも同じ方向を見てだまりこむ。いつもいっしょにいたぼさぼさ頭の男子は、もういない。
「とにかく、やったじゃん、けいと! お祭り、めいっぱい楽しもうぜ!」
「そうだね! ぼくは花火が楽しみだな!」
あわてて大輝とあさひが言うと、啓斗もうなずいた。
「
「えー? もったいない! 楽しいのにさ! けいとん
「花火は見えるから、家にいるときは見てたよ」
「
「せっかくがんばって家から出てきたのにやめてくれよ……」
ため息をつく啓斗に大輝は笑って、色とりどりの屋台を見回した。
「おっ、フランクフルトうまそう! イカ焼きに、やきそばもいいなー」
「あついから、カキ氷もいいですぞ! あとは、わたあめと、りんごアメと……ヨーヨーつりもしたいですぞ!」
「
「兄上さすがですぞ! ボクはまけないですぞ!」
「よし、オレのうまさを見せてやる!」
そうやってみんなでわいわいと言いながら、屋台を見て回る。時間はあっという間にすぎていき、どんっ、とおなかにひびくような音のあと、空が明るく光った。
「花火、キレイですぞ!」
「やっぱり――いや、ごめん。なんでもない」
あさひが言いかけてやめる。何を言いたいのかわかったから、大輝がかわりに続きを言った。
「やっぱジミーとも、いっしょに見たかったなぁ」
「……そうだな」
啓斗もつぶやくように言う。あおばとあさひもうなずいて、また空を見上げた。赤や青や緑や……空に大きく光る花が次々に
「うん、おれ、いっしょに見てる……花火、きれい」
とつぜん、うしろからした声。みんなおどろいて同時にふり向く。そこにはよく知っている、ぼさぼさ頭がゆれていた。
「じ、ジミーくんですぞ!?」
「えっ!? ジミー? なんで?」
「ジミー……きみ、本物なのか?」
「うん、ほんもの……」
言ってジミーは
「ジミーくん……」
「あさひ、泣かないで……またみんなに会えて、おれ、うれしい」
「ぼくだって、うれしいけど……ほんとうに、ジミーくんなんだね?」
「うん、だから、ほんもの……」
光と音は止み、人々がまた歩き始める。みんなの頭の中がおどろきや喜び、
「だけどさ、ジミー。おまえどうやって……?」
「今日は、ママといっしょに、お祭り、きた……」
「ママ?」
「あ、ママが、もどって、きた……」
「お祭りというのはワクワクするのぅ……食べて飲んで
ジミーがみんなの後ろを指さす。人ごみをかき分けながらやってきたのは、両手にたくさんの食べ物を持った女の人だった。
「ごきげんよう、子どもたち。ジミーママじゃ」
「ネルの神様!?」
「なんで神様がここに……ジミーくんのママって、どういうことですか?」
「フシギすぎますぞ!?」
「きちんと説明してほしいんだが」
長い
「ほほほ。良いりあくしょんじゃ! たーのしいのう!」
「うん、楽しい……みんなとも、また会えて、うれしい……」
ジミーもいっしょになって笑い、ぽかんとしている四人にもういちど向き直って、神様は言う。
「われらも、こちらで
神様はそう言ってウィンクをする。
「今回のようなことが起こってしまったのは、われらがネルの責任。これからもオキとのよい関係を続けていくには、こちらへと来て、オキのことをもっと知ることが大切だと判断したのじゃ」
「ネルは留守にしてしまって問題ないのか?」
啓斗が聞くと、神様はわたあめを一口食べてうなずいた。
「あまーくて
「わずかって……」
「でもこれで、ジミーくんとまたいっしょに、あそべるですぞ!」
「うん、あそべる……」
「うちに来たら、
「うん、おかし、好き……」
「またいっしょに勉強もできるね!」
「うん、勉強、たのしみ……」
「じゃあまず、ヨーヨー
「うん、する……!」
「大輝、もしかしてきみ、ジミーになら勝てると思っているんじゃないか?」
「けいとはうるさいな! さっきは調子悪かっただけだ!」
「ジミーくんが帰ってきたから、ボクももっと調子出して勝ちますぞ!」
「ぼくも、もっと調子出るかも!」
「じゃあまたみんなで、大輝を負かしてやろう」
「みんなでオレをバカにしやがって! 今度は負けないからな!」
「気をつけていってくるんじゃぞ?」
それからヨーヨー
「こうなったら神さ……ジミーママも勝負だ!」
神様は
「ほほほ、われに勝負を
そうしてまたみんなで歩き出す。お祭りの会場は、まだまだにぎわっていた。
オキの国 ネルの国 森山たすく @simplyblank
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