第91話

 一つ目の村の視察を終えた後、別の村に向かう途中で、前方から武装した集団が現れる。

 武装した集団はこちらに気づくと、道のわきに逸れて待機し、進路を譲る。

 すれ違いざまに声をかける。


「異常はなかったか?」


 そう問いかけると、兵士は緊張しながらも「異常ありません!」と答えた。

 あんまり、アレコレ聞いても緊張するだろうし彼らにねぎらいの言葉をかけ、その場を後にする。


 彼らは、領内を定期的に巡回しているうちの兵士たちだ。行軍訓練も兼ねて、10人程の小さな集団で領内を巡回している。

 本来なら騎士が引率するところではあるのだが、うちは専業の兵士のため騎士がいなくても隊が機能する。


 偶に金羊商会の商隊の護衛をやらせることもある。

 これが結構効率が良いのだ。

 兵士の訓練にもなるし、商隊は安全かつ護衛代を抑えることが出来る。そして、この物資を運ぶ商隊の護衛という経験は将来的に重要なことなのだ。


 まだ設置はしていないが兵站……つまり輸送部隊を設立しようと思っている。この先包囲網の貴族と戦う際に自領ではなく、他領で戦うこともあるだろう。そうなったときに長期的かつリスクを抑えて戦うために必要な部隊と言える。

 ちなみに兵站は軍事的だけではなく、統治的な目線からでもメリットを含んでいる。

 というのも、この世界では基本的に略奪がメインだ。だが、略奪に頼らないシステムを構築できれば、支配した占領地でも統治がしやすい。

 これは騎士の不足しているうちの状況的にもありがたい。文官の育成を始めようとは思っているが、知識人をそう簡単にポンポンと増やせるわけではない。広大な領地を効率よく支配するためにも民衆の反感は出来る限り買わないほうが良いのだ。


 そして兵站に合わせて軍紀……つまり兵士たちにルールも作らなければいけない。略奪をしないと言っても村人たちに暴行などを加えれば村人たちは反感を覚える。これらのルール決めに関しては現在エーリッヒとヘルベルトに任せて作らせている。


 まぁ兵站も軍紀もまだ実現するにはまだまだ時間も労力もいる。

 でもどちらも重要で実現しないといけないと思っている。兵士たちだって元は略奪や戦争で両親を亡くしたものたちが多い。村を追い出されるように兵士になった彼らのことを思えば、彼らのようなことが起こらない枠組みを作りたいと思えるのだ。例え、この乱世で難しいとしても成し遂げたい。


 まぁ……道のりは長いんだけどね。

 地平線まで続く道の先を眺めながら、一つ溜息を吐いた。




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伯爵家の五男ですが、公爵家の当主になりました。 灰紡流 @highvall

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