第5話∶いざ、ジェネリシア学園へ(2)

 竜の襲撃から1時間くらい経ったあとから、王国からの救援の馬車が来た。

 地竜の首を一瞬で撥ね飛ばした灰色の騎士シュヴァルトには正直引いた。自分とノーチェはあんな化物と戦っていたとは。

 今は代わりの馬車で学園へと向かっている。

 ノーチェが回復してくれたおかげで、怪我は無い。

 

 (それにしても疲れた、まさか登校の途中でモンスターに襲われるなんて…)


 同行していた冒険者4人、使者2人、兵士4人が全滅。飛竜4体と地竜1体の襲撃で3人生き残ったこと自体運が良かったとシュヴァルトは言った。飛竜って4体いたんだ。

 今はおにぎりを頬張っている銀髪の青年―アルバ・ミスタードと、魔力の使いすぎで疲れて眠ったノーチェと馬車に乗っている。

 

 「にしてもオメェ、すげぇな」


 アルバがリトにそう賞賛した。 


 「そう?僕はモンスター相手に怯えてばかりでほとんど攻撃できなかったよ」

 

 「いや、それでも俺に的確な指示を出せた。怖かったろうに、冷静にモンスターの特徴を分析した。最後らへんだってお前も戦ってたじゃねぇか」


 まぁ、結局勝てなかったし、飛竜2体を瞬殺したアルバのほうが凄いと思うけど。

 

 「にしてもあの蜥蜴強ぇな。あの灰色の騎士が来なかったら死んでたかもしれねぇ。まぁ俺に限ってそんなこと無ぇがな」


 凄い自信。まぁあれほどの強さなら納得。

 なんであそこに居たのか聞いてみた。馬車でアルバを見かけなかったから。

 何でも、アルバは旅人で村を転々として暮らしており、移住先の村でアスガルスの馬車が来たそうだ。そこで試験に合格したアルバは迎えの馬車が来るのを待ったが、いつまで経っても来ないものだから、自分の足で国に向かっている途中で、襲われている馬車があったから助けた、とのこと。

 

 「それにしても、ありがとうアルバ。アルバが居なかったら今頃…」


 「気にすんな、ちょうど戦いたくてウズウズしていたもんでな。やっぱり俺は運が良い」


 「だが、オメェの指示が無ければあそこまで戦えなかった。俺とオメェは相性が良いな」


 アルバがリトに顔を近づけた。


 「決めた!今日からオメェは俺の相棒だ」


 「相棒!?」


 「そうだ相棒。嫌か?」


 リトは首を横に振った。


 「ううん、初めてなんだ。外の人の友達が出来るの。よろしくアルバ」


 

――――――――――――――――――――――


 それから1時間後にアスガルスの門を通った。

 中央国家って付くだけあって活気や人が凄い。  

 今日はジェネリシア学園の入学式なだけあって、冒険者が集まっているらしい。

 やがて馬車はジェネリシア学園に到着した。

 まるで大きな屋敷のようだった。中央には時計塔、小さめの塔が4本、それらを繋げるように建物が建っている。桃色の木々―桜が乱れる様に散り、花弁が桃色の絨毯をつくっていた。近代的で均等な建築様式は、荘厳さと真新しさを感じさせる。東の方向には大きな講堂が建っており、そこで入学式をやるそうだ。

 今はその講堂で座って待っている。

 講堂はとても広く、貴族御用達の歌劇場よりも大きいかもしれない。 

 学園の建物自体に驚いたが、それよりも衝撃が強かったのは、亜人が多かったことだ。

 オーガ、エルフ、魔女、獣人…。多様な種族がこの学園に通っている。

 リトは亜人が苦手だった。魔物へのトラウマは亜人にも影響するほどに、大きかったから。

 

 (それでも、亜人にも良い人がいるのは知っている。冒険者の中にも亜人は居るし) 


 (それにしてもみんな強そう。僕もあれくらいに強くなれるのかな)


 「いや〜、どいつもこいつも強そうじゃねぇか。模擬戦が楽しみだぜ」

 

 「ここがジェネリシア学園!すごいなにあの獣人!あれって…、まさか竜人!!すごい!」


 不安に駆られているリトとは相対的に、2人はとても楽しそうだ。


 (僕もあれくらい楽しめたほうがいいよね)


 せっかく入学できたのだから楽しむべき、とは言っても入学早々トラブルに巻き込まれたのだから、そんな余裕は無い。

 新入生が全員揃ったようで、入学式が始まった。

 最初に始まったのが、学園長代理―カルメーン・イグナルスの挨拶。

 豪奢な藍色のローブを身に纏っており、フードを深々と被ってるせいで顔が見えない。まるでローブそのものが自我を持って動いているような、不思議な雰囲気を感じる。声も平坦で人間かどうか、そもそも生物かどうかすら分からず、身にまとった神秘的な雰囲気に目を奪われて話の内容が入ってこなかった。

 

 「――さて次は、新入生からの御挨拶です。新入生代表―星雲セイラ」

 

 新入生代表、それが意味する言葉とはつまり、1年生で最も優れた生徒であると言うこと。

 周囲もざわついている。

 静かな喧騒は、新入生代表が台へと上がったタイミングで静まり、視線が彼女へと集まった。

 2等星のような水色のサイドテール、雪のように白い肌。フリルの付いた短いスカートと肘丈までしかないマントには、幾つもの星座が描かれており、他の者よりもデザインが凝ってある。

 それだけなら可憐な少女の姿であるが、彼女が人外である証拠は瞳にあった。

 星空のように輝く眼には、五芒星型の瞳が一等星かの如く強い光を放っていた。

 魔女の三角帽子を小さくデフォルメされたカチューシャからするに、種族は星の魔女ステアルギスだろう。星を操る魔法、《星々の神言アストロソール》を得意とする魔女の一種。

 才能集まる学園のトップが、まさか戦いとは無縁そうな少女だとはみんなも驚いたことだろう。

 しかし魔法の才を持つ者は分かる、何故なら彼女からSを感じ取ったから。

 沈黙に包まれた講堂を、星の魔女―星雲セイラが口を開く。


 「やっほー!星の魔女ステアルギスの天才魔法少女、みんなのアイドル、セイラだよ☆」

 

 可愛げたっぷりに舌を出してウィンク、ピースサインで、まさにアイドルかの如く挨拶を、厳粛な講堂で実行した。

 教師と校長代理が強張っている。顔が無いし肌もないのに、汗をダラダラとかいてることが分かる。

 こんなとこでふざけた挨拶をするなんて誰が予想したものか。他の新入生も固まっている。(ノーチェは目をキラキラとさせて、アルバはこいつおもしれぇと爆笑してる)

 

 

――――――――――――――――――――――



 新入生代表からの挨拶は強制終了となり、入学式が終わったからこれから教室に向かっている。

 それにしてこの学園は広い、ちょっとした都市と同じくらいの学堂なんて見たことがない。

 

 「ハッハッハ! にしてもおもしれぇなあの魔法少女」


 「すごいよあの子!絶対強い!」


 (この2人強いな…。)


 ノーチェの言葉には共感する。リトは魔法を齧ってる程度だが、星雲セイラは間違いなく、この新入生でも強い部類だ。

 魔力が高いとはベクトルが違うような、生まれ持った才能に似た物だろうか。

 将来的にAランクになる生徒と、すでにSランクの実力のある生徒だと天地の差がある。前者も十分すごいけど。

 

 (それはそうと、まずは教室に行かないと。たしか僕の教室は…)


 周りを見渡していると、人集りが目に入った。

 十字路の中央あたりだろうか、男女の怒声が耳に入る。

 

 「ぶつかって来たのはそっちでしょ!謝りなさい!」


 「うるせぇな、ちびが。そっちこそ謝れよ」


 片方がドレスの様なセーラ服を来た貴族の娘。

 もう片方がガラの悪そうな大柄な男子生徒。

 

 「なんだ喧嘩か?」


 「あんな小さな子相手に、みっともない」

 

 ノーチェは純粋な正義感から、アルバはワクワクした様子で喧嘩を止めようとしているようだ。

 リトもこの光景が許せないし、止めに行こうと思っていたところだ。

 ガラの悪い男子生徒の身長は180近く、リトたちはだいたい168くらいと身長差はあるが、そんなのどうでも良い。

 

 「キミ、もうそこまでだ」

 

 「あ゙?なんだてめぇ」

 

 男子生徒がリトを見下ろす形で睨む。

 リトは屈せずに言いきった。

 

 「その子は困っている。これ以上は容赦しない」


 「てめぇ調子に乗りやがって」


 一触即発だ。この光景を面白そう思ってか、ガラの悪い男子生徒が4人寄ってきた。

 争いごとを嫌うリトだが、だからこそ、この光景を見過ごせなかった。


 「庶民風情が私に恩を売る気?言っとくけど、こんな雑魚相手私だけで充分なのだから」


 さっきの貴族の娘が不良を煽った。

 黄色みがかかった白く長いツインテールに、ぱっちりとした気の強そうな銀眼の少女。身長は150と童顔と幼い見た目をしている。

 煽りに反応してか、不良達が貴族の少女に寄って詰める。

 

 「てめぇ、世間知らずにも程があるだろ、そう言うやつはな、真っ先につぶされ、…」


 「《衝撃風ウィンドショック》」


 不良が言い切る前に、少女が手を突き出して魔法を唱え、放った。

 

 「ぐぇぇ!」


 大柄の不良が2メートルほど吹き飛ばさせる。 

 

 「てめぇ!」

 

 不良2人がメイスを取り出し、殴りかかる。


 「【フルスイング】!」


 「《岩魔弾ロックバレット》」


 少女が両手を不良2人に標準を合わせ、魔法陣を展開して岩の弾丸を射出した。

 弾丸はメイスごと不良2人を吹き飛ばした。

 不良3人が一気に…。


 (3人?…っ!)


 不良が少女の背後目掛けて斬りかからんとしている。


 「危ない!」

 

 間に合わない、そう思っていた。

 少女背後の地面から魔法陣が展開された。

 魔法陣から岩の巨腕が姿を現し、不良を掴みかかった。


 「ぎぁぁ!たすけて!!」

 

 巨腕に掴まれた不良は情けない声を上げている。不良は巨腕に叩き潰され、気絶した。

 

 「余計よ、ガディ。これくらい一人で…」

 

 少女が巨腕に話しかけた。呼びかけに反応してか、巨腕は引っ込んだ。


 (なんだあれ、召喚魔法…?)


 高貴な少女が髪を靡かせ、スカートを払い終わると、こっちに冷たい視線を向ける。


 「で、庶民が何の用かしら?」


 一応助けようとしたんだけど。

 アルバはいつものテンションで話しかける。


 「おめぇ、強いな!見たところ貴族っぽいが」


 高貴な少女は当たり前と言わんばかりの表情を見せる。


 「当然よ、私はドミヌワイス家の次期当主。エーデル・ドミヌワイス。あんな貧民風情、私の敵ではないよの」  

 

 すごい自信だ。しかもさっきから見下した口調が目立つ。流石のノーチェもいい気分ではないようだ。

 

 「ちょっと、まずはお礼を言うべきじゃない?一応助けようとしたんだから」


 また空気がピリ付いた。ノーチェの額には青筋が浮かび上がっている。


 「庶民風情にお礼を言えと?別に貴方達が助ける必要は無くてよ」


 「あんたねぇ…」


 ここでリトが仲裁に入った。


 「2人共落ち着いて、一応僕たちの助け無しで彼らをたおしたんだから。それに問題も解決したし、結果オーライでしょ?」


 「…リトが言うなら。今回は見逃して上げる」


 「見逃してあげるのはこっちだと勘違いしないでよ」


 ノーチェがエーデルに掴みかからんとしていると、突然爆発音が響いた。


――ドカーーーーーン!


 三階の教室からだ。


 「え!?なにが!?」


 周囲も驚いている。


 「あそこって確か特待生の教室だよな」


 「なんで爆発…?一瞬魔法陣が見えたから、魔法?」


 他の生徒も教師も突然の状況で驚いている。

 教師の何人かが教室へと向かった。

 

 「まったく、今日は問題児が多いのね」


 エーデルが呆れた様子で、魔法陣から石の人形を取り出した。2メートルくらいの、だ。


 「ゴーレム?」


 「そう、私は人形技師ゴーレムマスターなの。さぁ行くわよメアリー」


 リトの疑問にエーデルはそう答えた。


 「ではご機嫌あそばせ」


 上品にスカートの裾辺りを摘んでお辞儀し、ゴーレムと共に何処かへと消えた。

 入学早々、ここでの暮らしは波乱万丈だと、リトは予感せざる終えなかった。

 

 爆発について後に知ったことだが、星雲セイラがからかってきた生徒を制裁しようとして、うっかり教室を吹き飛ばしてしまったからとのこと。怪我人がからかってきた生徒だけなのが、幸いと言うべきか。

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閃光の勇者 バジルソース @bagiru

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