リオ、魔法の講師になる!その3

 リオが魔法の講師になって2日目、恐れていた事が起こってしまった···。みんなリオの魔法の授業を見学に行ってしまい、他の授業に参加する学生が半分ぐらいになってしまったんだよ。


 まぁ、元の世界のように授業をサボってるわけじゃないんだよ?『受けたいけど受けられないからせめて見学だけでも!』っていう熱心な学習意欲から来るものだから、学園側からもきつく言えないんだよね···。


 この世界の学園は『学ぶこと』が本業であり、元の世界のように学士だの博士という『学歴』が欲しいし、就職に有利で年収が上がるから!っていう目的じゃないんだ。言うなれば元の世界でいうところの『聴講生』がぴったりかな?


 大学は『開かれた学問』という立場なので、『学歴は必要ないけど授業を受けたい!』って人は割安な価格で授業を受けれる制度があるんだよ。もちろん大学によって定員枠あるし、学生より制限が多いけどね。


 エーレタニアでは聴講生と学生をくっつけたような制度だ。何年いてもいいし、必修科目は存在せず、すべて選択科目。自分のペースで学んでいって、仕事の募集があって受けた授業の条件を満たしたら卒業して就職という流れだ。卒業に必要な単位も存在しない。まさに自由に学べるんだよ。


 まぁ、問題点もたくさんあるけどね。今回なんかは特にそうだ。


 とりあえずリオには状況だけ説明しておこう。何かをしてほしいとかはないんだけど、何も知らないってのもマズいからね。



 ここ最近、帰る時は学食に寄っているんだ。料理長がボクたちに学食での余りのおかずを、夕食として持ち帰りとして用意してくれているんだ。元の世界だと食品衛生法上禁止なんだけど、ここでは関係ないし、万が一当たったとしても回復魔法があるからね。ちゃんとお金は払ってるよ!



「いつもありがとうございます。リオ一家の分まで用意してもらっちゃって」


「ははは!代金もいただいてるし、アキさんには料理内容の改善に大いに貢献してくれたからな!いつも余り物で悪いけどな!」


「そんな事ないですよ?いつもおいしくいただいてます」


「おっちゃん!ありがとなー!妻も喜んでくれてるぞー!」


「そうかそうか!また新作を考えてるんでな。今度はリオさんも付き合ってくれよな!」


「おう!楽しみにしてるぞー!」



 そしてその場でボクは転移した。そして今日はうちでみんなで食べることにしたんだ。



「リオ。ちょっと気分が悪くなる話をすることになるけど、いいかな?」


「どしたー?何かあったのかー?」


「実はね?みんなリオの授業を受けたくて仕方なくって、授業を抜け出して見に行ってるみたいなんだよ」


「えー!?それってマズくないかー!?」


「まぁ、制度上問題ないんだけどね?授業として登録していない以上、魔法研究所とかから募集がかかっても見学してるだけだと要件満たさないから、応募したくてもできないんだよね」


「でもなー?オレはこれ以上受け持てないぞー?···朝寝坊はもうどうにもならんしなー」



 ですよね~。そしたらナナからいつもの口撃・・が始まった!



「···アンタね?早起きしたらもうちょっと受け持てるんでしょ?学生さんを見習ってアンタも早起きしなさいよ!?」


「無茶言うなよー!?これでも頑張ってるんだぞー!?」


「···まぁ、そうよね?できてるならあたしが苦労しないわよね~···。はぁ~···」


「となると、別の講師が必要だよね。でもなぁ~?適任者っていないよなぁ~」



 そうボヤいたらリナから提案があったんだ。



「わたしとコルがやってみようかしら?」


「いや、さすがにリナとコルくんには荷が重いと思うよ?リナはコルくんにも教えたけど、リオみたいな教え方はできないでしょ?」


「あ~、そうかも···」



 結局、この話はここまでになってしまった。どこかに適任者っていないのかなぁ~?



 その週の週末。リオは授業でヘトヘトになってしまって休みの日は昼までお寝坊さんだ。そして昼食後にリオはナナと買い物に一緒に出掛けた。疲れ切って外に出たくなかったリオのしっぽを引っ張って無理やり連れて行ったんだよ。そしたら、道中でひとりのおじいさんに出会ったんだ。


 なんと!その人はリオに魔法を教えた師匠さんだったんだよ!エセムさんっておじいさんで、かつては『変幻自在』という異名も持ってたんだって!


 リオの魔法が見たい!って事だったので、リオからちーむッス!で呼び出しを受けて、子どもたちも全員呼び出されて郊外にある訓練場にやってきて、最強魔法を披露したんだよ。


 エセムさんはあまりにも高威力の魔法を見ちゃって呆然としてしまい、入れ歯が落ちちゃってたね···。まぁ、そうなるよなぁ~。


 腰が曲がって腰痛持ちだそうだけど、高齢なのにボケておらず、エセムさんの魔法も少しだけ見せてもらった。さすがリオのお師匠さんだけあって、威力はもうないものの、非常にきれいな魔法を見せてもらった。ボク自身も勉強になったし、子どもたちも、特にリナは見とれていたね~!


 そうだ!エセムさんに魔法の講師をやってもらえないかな?聞くだけ聞いてみるか!



 その日の夜はボクのうちでエセムさんは泊まってもらうことにした。温泉療法についてはボクも多少は知ってるから、うちの家の温泉でもできるしね!



「エセムさん?ちょっとお願いがあるんですけど···」


「なんじゃぁ~?もう現役引退していつ死んでもおかしくないようなジジイに、何を期待しておるのかの?」


「実は、リオは今、魔法の講師をしているんですけど、人気が高すぎてほかの授業に学生が来なくなってしまったんですよ」


「ほほう!?リオがそんな事やっとるのかぁ~」


「そこで、エセムさんにも講師として来ていただけないですかね?短期間だけでもいいんですけど···」


「···お主はワシの事をどこまで知っておる?」


「すいません···。リオから詳しくは聞けてないんです···」


「···ワシはの、基本的に弟子は取らんのじゃ。まぁ、リオだけ特別じゃったがなぁ~。弟子はリオだけじゃなぁ~」


「どうしてリオだけ特別だったんですか?」


「···どうしてかのぅ~?もう50年前のことじゃから忘れてしもうたわい。ただ···、『教えたほうが世界のためになる』とふと思ったんじゃったかなぁ~?」


「そうなんですか···。リオはエセムさんが教えた通りに教えていると言ってました。その教えのおかげでボクたち家族やリオの家族、そして最後の整調者ピースメーカーのコルくんも、リオが育て上げました」


「ほうほう!リオには魔法以外にも、そういった素質があったんじゃなぁ~」


「リオはたった1か月、エセムさんに学んでそこまでできたんです。···こういういい方は非常に失礼かもしれませんが、もういつ死んでもおかしくないんでしたら、その魔法の技術を若者に継承していただけませんか?あなたの磨いた技術が、リオだけしか継承できてないのは『世界にとって損失』だと思うんです」


「···ふむ。お主が言いたい事はわかった。なぜワシが弟子を取らなかったかを話しておくかの。講師を頼みたいなんて気も起きなくなるじゃろうし」


「え?そ、それは?」


「ワシはな、『外の理の者』なのじゃよ」

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アキの異世界旅行記 すぴん・おふ! ぷちきゅう @petit_exp

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