海辺の町、ルーキスの故郷へ
祖父と祖父の仲間たちの仇を討ち、フィリスの故郷プエルタの街に帰ってきたルーキスたち。
その街に住むフィリスの両親に恋人として挨拶してから数日。
ルーキスは宿を出て、しばらくフィリスの実家で過ごしていた。
それというのもフィリスの両親が予想を越えてルーキスやイロハの事を気に入ったからだった。
ルーキスは前世で長く生き、転生した人間。
人付き合いは得意で、フィリスの両親に対しても理想的な娘の恋人、義理の息子として接していた。
そして、ルーキスとフィリスが娘のように
しかし、ルーキスたちはそんな両親たちの元を離れる話をある晩持ち出した。
「家を出る?」
「はい。僕の両親にもフィリスやイロハを紹介したくて」
「確かにそれは大事なことだ。寂しくなるなあ」
「何言ってんのよパパ。長く旅をするわけじゃないのよ?」
「そうは言うが」
「ダメよあなた、無理言って引き止めちゃ可哀想だわ」
というわけで、事情を話したルーキスたちは翌朝早くにプエルタの街を出るために荷物をまとめ。
予定通りフィリスの実家を出た。
「フィリス。ルーキス君のご両親の前ではお淑やかにしてくれよ?」
「そうよ。大人しくしててね」
「パパもママも、私をなんだと思ってるのかしらねえ」
フィリスの実家の前で別れを惜しみ、見送りに出てきてくれた両親の言葉に青筋を浮かべたフィリスに苦笑いを浮かべ、ルーキスは会話に割り込むように「短い時間でしたがお世話になりました、お義父さん、お義母さん」と、深々と頭を下げ、それを真似してイロハも頭を下げる。
「また来てくれるよな」
「もちろんです」
「フィリスのこと、お願いねルーキスくん」
「はい」
挨拶もそこそこに、ルーキスはフィリスの手を引いてプエルタの街の北へと向かうために歩き出す。
まだ何か言いたげだったフィリスも、不意にルーキスに手を繋がれて赤面すると急にしおらしくなって大人しく歩き始めた。
その後ろ姿を見て、フィリスの両親は苦笑する。
「フィリス、女の子らしくなったなあ」
「そうねえ。心底相手がルーキス君みたいな子で良かったわ」
両親にそんな事を言われているとは知らず、久しぶりにルーキスとフィリス、イロハは並んで歩き、プエルタの街の北門から街の外に出た。
「ねえ。ルーキスの町までどれくらい掛かるの?」
「歩いて二日。今の俺たちなら走れば一日も掛からねえよ」
「いや。走らないわよ?」
「俺も走る気はねえよ。ゆっくり行こうぜゆっくり」
「馬車は出てないのですか?」
「定期連絡用の馬車や竜車は出てるけど少ないんだよなあ便数。田舎だし」
などと話しながら歩いてしばらくすると、ある場所でフィリスが足を止めた。
その場所は、足を止めたフィリスはもちろん、ルーキスにとっても思い出深い場所。
ルーキスとフィリスが初めて出会った草原だった。
「初めて会った時はゴブリンに殺されそうだったのになあ」
「本当にな。それが今や上級冒険者だもんなあ。成長したもんだ」
出会った頃を思い出し、気恥ずかしなって顔を赤くするフィリスに手を伸ばし、再び手を繋いで歩き出す。
そこにイロハも加え、街道に吹く心地の良い風。その風に運ばれてくる草花の匂い。三人を見守る太陽の暖かさ。その全てを感じ、楽しみながらルーキスたちはゆっくり歩いていくのだった。
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