真夜中のオアシス

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真夜中のオアシス

これは私が働き始めて、1、2年といった頃のお話です。

当時、付き合いたてだった彼女と、私は毎週のように遊んでおりました。

お恥ずかしながら、あまり裕福ではなく、二人ともインドア派なもので、あまり外デートをするような事はありませんでした。


ですが、そんな私たちも、外を出歩く事がございます。

それが、終電で帰る時の、帰り道でございます。


2人で手を繋ぎながら、歩いて1時間ほど話しながら帰ったことを良く覚えております。


あれは、寒い冬の日のことでした―。


その日も、そうして彼女を見送ると、私は手がかじかんでいることに気づきました。


私の地域の冬の寒さは、北のそれとは比べるべくもないのですが、それにしても、その日は我慢できぬ寒い日でありました。


「さみぃなぁ…。」


誰もいない、無人の駅に、私の声だけが響きました。


駅から出て左を向くと、いつの間にやら、自販機が、増設されていることに気づきました。


「あれ?自販機増えてんじゃん…。」


私は、暖を求めて、自販機へと小走りで駆け寄ります。


「ふぃ〜。コンポタ、コンポタ。」


私はコーンポタージュが大の好物で、未だに新作を見かけると買ってしまうのですが、寒いのも相まって、私の脳内はコーンポタージュで満たされておりました。


「おっ!あったあった…。」


小銭を数枚取り出し、自販機に投入すると、迷うことなくボタンを押しました。


ガコン―。


自販機特有の落下音をたてて、私に最適な温度のコンポタを提供してくれる。


文明の利器に感謝しつつ、私は、取り出し口に、思い切り手を突っ込みました。


「っめてぇ!!っんだこれ!!」


私は思わず大きな声で叫びました。

そうして取り出したコンポタを見ると、その表面には、びっしりと氷がついていたのです。


「ハァッ!?」


自販機の表示を見ると、【準備中】の文字が光っていました。


「じゅん、はっ!?えっ!?」


私は、何度も表示を見直しましたが、その表示が変わることはありませんでした。


これは後から知ったことなのですが、普通、準備中のスイッチは、自販機の仕様上、押しても商品が出ないようになっている筈なのです。


一体、この真夜中のオアシスは、なんだったのか。


あの中身を普通に飲んでしまった私は大丈夫なのだろうか。


書いてる今も、思い出すと気になって、夜しか眠れません。

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