【ザンゲキ】
ここは人里離れた田んぼの広がる小さな田舎町。そんなところで俺はほのぼの育った。実は県内屈指の名門校(自称進学校ssランク)を卒業したのだが、難関国立大学の壁は厚く志望校は全落ち、(ひとつしか受けてないが)。その後は完全に堕落した。その惨状を目の当たりにした父に
「車の免許でも取ってみたらどうだ」
と言われた。まあとりあえず車の免許を取ることに専念してみた。無事免許を取得し、そして今は運転の実践練習と称して親父の仕事につき合わされている。生ぬるい風に纏われながら、悠然と進むSLを見ていると、どこで線路を脱輪しちゃったのだろうかという疑問がふつふつと湧き上がっているように感じる。永遠と田んぼの広がる農道を進むと古いガソリンスタンドが見えてくる。そこに最近は見ない白いレトロな車が不自然にポツンと停まっていた。とても映える。そうだ、そのガソリンスタンドは高校時代の友人がバイトで働いていたはず。よしっ、休憩がてら寄るか。
店内に入ってみるといつもよりもずっとシーンとしている。てか誰も店員いなくね。いやあの寝っ転がって漫画読んでる人はなんだ?店員の服装だが。
「ゆうき〜、いるー?」まあとりあえずまずは友樹。
「はーい。」そうそう彼が友達の友樹だ。と紹介したかったが、女性の声だ。いつの間に性転換してたってのか。確か有名映画に"お前誰"みたいなタイトルのやつがあったがそれだったりする?
「あの、小林友樹って奴がここで働いてると思うんですが。」
それにしてもカワイイなこの子。
「あー、ユウキくんは昨日死にかけてとうぶんバイト休むと思う、っていうか私以外
みんなとうぶんいないかも。」
き、昨日だ?タイムリーな奴だ。まあこの子から君付けで呼ばれてる代償だな御愁傷様。おっとちょっと待て、じゃああの転がってむにゃむにゃ漫画読んでる奴は店員じゃないのか?じゃあ誰?ちょっ、そんなストーブの近くにいたら服が、
「あっつううううう」
そうなるよな。どうしちまった、このガソリンスタンド。
「で、ご用件は?」
で?じゃなくて、なんかそこの人焼けてるけど!火がついちゃってるけど!あと色々ツッコミどころ満載なのにそこで話終わらせるかな。
「ええっとお、要件っていうか友樹に用があったんで、そういえばどうして死にかけたんですか」
「怪奇現象です。」
とても簡潔。でもね、もう少し教えてもらわないとこちらとしても意味不明なままというか。
「それで、そのカイキゲンショウというのは、例えばどういったことが起きたり?」
「あの車です。」
てか解答になってるのかそれ?
「故障とかですか?」
「違います!」
そうですか。全然話が進まん、だめだわ。
「じゃあまた来るんでそんときに。」とりあえず仕事に戻ろう。
「そうですか、お待ちしております。...,そうだここで働きませんか?今人手不足で〜」
でしょうね。
「アハハ...。」
会釈をし、そそくさと軽トラに乗り込む。あ、連絡先交換してないじゃん。
しばらくして渋滞に巻き込まれた。まずいな目的地目の前なんだけどなあ。お、警官だ。
「あのー、先ほどですねえ踏切で車が二台立ち往生しちゃってですねー、とうぶん動けないんですね、ふっ、でー迂回ルートがあるんですけど前の車について行ってもらったら大丈夫なのでそういう感じで。」
「はい」
終わった、とうぶん動けないとか笑えん。ネットニュースにもなってるぞ、えっと、サーフボードが対向車上の自転車と絡まって停車したところ電車と激突?踏切の誤作動か?。もう誰が悪いかわからないじゃん。カオスじゃん。まずはお客さんに電話せねば。プルルル、ピッ
「はい村田で〜す。」あれ田村さんだったような気がしたんだけど番号間違えたかな?
「ええっとお荷物運びしてますホンダですけれども。渋滞捕まっちゃいまして。」
「困ったねえ早くしてもらわないと宮本さ〜ん。」うーん。やっぱ間違えたかなぁ、かけるところ。
「本田ですね。」
「おおとこれは失礼。それで、どのぐらい?」
「30分ぐらい遅れると思います、誠に申し訳ございません」
「了解です。」
「では」ピッ
その後なぜか謎の炭酸飲料をもらった。仕事を終え、すっかり道は真っ暗だ。
街灯?田舎にはそんなものはない。そろそろあのガソスタが見えて来るはずなんだが。
ん?さっきの車のランプが光っている。人影はない。エンジン音もする。まさか、動くのか?自走?ありえないまだ完全自動運転の承認はされてないはず。田舎ならいいのか。いやいや、厳しいって。大体あんなオンボロ自動車にそんな機能が搭載されてるわけない、落ち着け、幻想だ幻想、そんなこと起きるはずが...。その車はミラーにこの軽トラが映った瞬間、走り出したのだ。そして家からは悲鳴。
「きゃー誰かあの車を停めて〜」そらそうだ。しかしながらこの軽トラで追いつくのか?そんなこと考えてる暇はない。
するとさっきの女店員が自転車を取り出した。彼女はどうやら俺の車に気づいてない。
「その二輪車じゃ追いつかんて、バイトの姉ちゃん。」
「と、とりあえず早く乗せなさい!」いやだよ、だって最初に隣に乗せるのは彼女だって決めてんだ(いない)。君のような
しかしながら現実はそう甘くない。俺の小さな夢はたった今潰えた。
「早く追わないと置いてかれちゃうわ!」カチャ
「はいはい。」
「ねえ、もっとスピード出ないの?」
「軽トラですよ厳しいっすよ。」
でも本当ならもっと差がついてもおかしくない、変な違和感がある。あとミラーにはなんとなく視線を感じる。そのまま小川の古びた橋を渡り、山道に入った。嫌な予感がする。
「それにしてもなんなのかしらあの車不気味よね〜」
「さっきから思ってたんですが、なんだか楽しそうじゃないですか?」
「だってカーチェイスよ、絶対楽しいじゃない。」軽トラなんだがパトカーじゃないんだが。
「そういえば名前聞いてなかったね。」
「本田です。」
「下の名前は?」
「賢治です。きみは?」
「言うわけないよ、見ず知らずの男に。」は?可愛いと思った俺がバカだった。
「なんて冗談よ、冗談、言わないと思った?w。私はマチダミカ、」あはは、全く笑えねえぜ。
「ええっと、そういえばミカさん、友樹はなぜ死にかけたんですか?」
「友樹?あー、なんか突然私を呼び出して『この車で一緒に行きたいところがあるんだどうだい?』って自信満々に言い出して、でも私そのあと彼氏との用事があるから無理って言ったら。それと同時に車の横で崩れ落ちて...」
「ぶは!」話が面白過ぎて飲んでたマヨネーズ入りヨーグルト味炭酸水を吹き出しちまった。なるほど精神が死にかけたのか、てかあんた彼氏いたのか、その彼氏も可哀想だな。
「そりゃ残念。」
「それでね」
「まだあるんだ」おっと心の声が、
「友樹くんが崩れ落ちる瞬間に、車のドアが、ガッて開いて、ぶっ飛ばされちゃったんだよね。」
「ぶは!」まあ今度は対策済みだ、窓を空けといた。友樹お前まじか。
「あ!あの車、停まったわ」
5メートルぐらい離れて俺も停車した。彼女は早々とドアを開け突撃しようとしていた。SATかな?
「早く、きっと今がチャンスだわ。」内心怖い。
泥棒が乗っている可能性を鑑みて、携帯をポケットに忍ばせ、俺もドアを開けた。彼女はすでにその車の脇まで接近していた。
「人がいない...。」彼女の焦燥感のある声が聞こえた。半信半疑だ、なぜなら、ここから見た俺の目には中の人間の姿がはっきりと見えるからだ。こちとら視力2だぜ
。
「人が乗ってない?じゃあ何が乗ってるってんだ猪がここまで運転してきたとでも言うのか。」
「違う、ス◯ーウォーズとかで出てくるあれよ!」
ホログラムだろ言いたいことはわかる、でも映画名出すのは、
「ホログラムってやつかな。」
と言って車に触れた瞬間。
「ガチャ!」
あとずさりする俺とそこに駆け寄るミカ、これまずいやつだな。触っちゃいけないとこ触っちゃったかな。そして、カタカタと鳴り出す機械音と電子音、車体はヌルヌルと立ち上がる。その姿は鋼鉄のいかにも重そうな鎧、甲冑、兜を身につけた源義家のようだ。その車の白いテイストを残した日本刀のようなものも見える。そして思わず携帯を落としてしまう。
「今に見ろ、斬ってやる。」
スッと、取り出した巨大な刀は目に見えぬ速度で円弧の軌道をなぞりながら華麗にミカさんに向かって一直線に振り下ろされる。ように見えた。
「キャアアアアア、喋ったあああああ!」
そうじゃないミカさん、身に危険がせまってますよ。
「ミカさん避けて!!」
しかしながら間に合わなかった。もう刀は収めており、そこで俺は気づいてしまった。真っ二つに無惨な姿で倒れている俺の最新型携帯電話に。あゝ。
異変 まさまさ @kattu1213
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