勇者は、幼馴染ツンデレ魔王をデレさせたい‼

松葉たけのこ

第1話 「そこは、いらっしゃいませ――で良いんだよ?」


「よくぞ来たな、勇者よ」


 魔王がそう告げる。

 魔王城の最上階、魔王の居室にて告げる。

黒い鎧に身を包み、黒いマントを着込んだ女。赤い髪に赤い瞳の女。

透明の階段の上、黒い玉座に座る女。

その女帝こそが魔王エリーサだ。


「待っていたぞ、この時を」


 黒い玉座を背にして、魔王はお決まりの台詞を言う。

 台詞の後は、赤い瞳で階段下の男を見る。

その瞳は、次はお前の番だと言っていた。

3人ばかりの女冒険者に囲まれた、白い鎧に白いマントの剣士。

マントには王国最強を示す、竜の紋章が金色に刺繍されている。

その紋章こそが、俺を何者か示す唯一無二だ。


 俺は勇者である。

 次は俺こと、勇者ウィルバードが喋る番。


「そこは、いらっしゃいませ――で良いんだよ?」


 魔王がずっこける。


「おま……ウィル、そこは合わせなさいっ!」


 囲んでいた女冒険者もとい、勇者パーティの仲間たちが顔を見合わせる。

 何が起きているのか、分かっていないのだろう。


「待っていた、か……嬉しい事言ってくれるじゃん」

「やめて」


 魔王エリーザは恥ずかしそうに顔を覆う。

 けれども、俺は猛攻を止めない。


「エリー。会いたかったよ、俺も」


 ゆうしゃのキメ台詞。

 魔王に999のダメージ!

エリーザがよろける。


「ひぅ」


 俺とエリーザもとい、エリー。

 その関係は複雑に見えて、単純だ。


「幼馴染として、な」

「……そうね」


 エリーの瞳が曇る。

 何か言う事を間違えただろうか。

それは不味い。

ここでの選択肢ミスは“世界”に関わる。


「ともかく勇者よ! ここに来たという事は、だ」

「ああ、やる事は一つ……だな」


 エリーが右手を掲げる。

 その長い爪の先に、魔力が集まるのが見える。

膨大な魔力だ。これを相手に戦ったら一溜りもない。

覚悟を胸に、俺は階段を一つずつ昇る。


「ウィル……?」


 仲間の一人、女魔法使いチェルシーがついてこようとする。

 続いて、他の仲間たちも一段昇る。


「おい、何がどうなっているんじゃよ? ウィル」

「本当ですよ! 魔王が幼馴染とか!」


 俺はそれを右手で制して、昇る。

 1人で昇る。

そのまま階段を昇り切り、魔王の目前に迫る。

魔王エリーザ。彼女と対するのは3年ぶりになる。


「剣を抜け。勇者ウィルバード」

「断る」

「何……?」

「剣など振るえるものか、他ならぬ君に」


 俺は跪く。マントを翻す。

 それからエリーの左手を取った。

両手に取り、彼女を見上げる。


「魔王エリーザ、君を愛している」

 

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