熱砂騎兵
砂の海での襲撃
【SSR】“豊穣の聖天使”グラーヴィア。
属性:熱情
HP:高め
攻撃:最高
防御:普通
速度:高め
幸運:普通
装備:聖剣ヴァルヴェレア
アビリティ:全力突撃!
HPが50%以上の時、攻撃力1.5倍
スキル:フレイムエッジ
敵一体に熱情属性の中ダメージ、火傷の状態異常
秘奥術技:超! フレイムエッジ!(命名・グラーヴィア)
敵全体に熱情属性の大ダメージ、高確率で火傷の状態異常
熱砂の海。
聖界のレゾンデートルにおいて、夢幻の門から移動できる砂漠地帯である。
ゲーム的には悪魔が出たので退治しよう、的なイベントしか起こらない場所だ。
一応設定上は複数のオアシスにそれぞれ集落があり、神殿にも熱砂の海出身の、褐色肌の聖天使がいる。
ただし豊穣の聖ポニ天使グラーヴィアさんも褐色肌だけど、別に熱砂の海出身ではない。何故彼女がスク水焼けなのかは謎のままだ。そこら辺設定揃えておこうよ。
「ふぁ、生き返った……」
「アタシこんなに水が美味しいって思ったん初めてかもしんない」
天使さん達から革袋に入った水を分けてもらい、ゆっくりと喉を潤す。
あのままだときっと僕たちは砂漠で行き倒れていた。本当にグラーヴィアさんには感謝しかない。
「もう、ほんとになんでこんなとこにいたの? 水も持たずにぃ」
「それが、僕らも分からなくて、ですね。助けてくださってありがとうございますグラーヴィアさま、もしここで会えなかったら僕たちは死んでたかもしれません」
「グラさま、本当にありがとう! 何か手伝えることありますか? アタシらなんでもやりますよ!」
「あははー、まず様呼びと敬語止めてもらっていい?」
怒ってる訳じゃないみたいだけど、残念ながら僕らの敬意があんまり通じてない。
感謝の気持ちは本当だけど、本人の希望なので言葉は戻させてもらった。
「グラーヴィアさんは……熱砂の海の調査?」
「うん。ほら、前に話した災厄の発生源を空から探してたの。でも、色々問題が出てきちゃって、一度集落に戻ろうってところでふらふらな二人を見つけたって流れかな。これはさすがに放っておけないなー、と」
「本当に、ありがとう。おかげで助かったよ」
グラーヴィアさんは六人の部隊でこの辺りを調査していたらしい。
天使に寄生する新種の悪魔や大型のゴーレムなど危険な相手が多数確認されているから、聖天使の中で一番戦える彼女が先頭に立っているとのこと。
部隊の中にはモモさんもおり、小さくこちらに手をフリフリしてた。
僕も手を振り返しておく。色々お世話してくれた子だからまた会えて嬉しい。
「モモさん、部隊に復帰したんだね」
「はいっ、戦闘部隊復帰、また頑張りますよー。あっ、リサさん! 目の前でいきなり消えちゃったから心配してたんです」
「あはは、アタシもあれはびっくりー」
両手でグッとガッツポーズ。元気になったみたいで良かった。
僕たちが話してても部隊の人たちは不思議そうにはしていても、「あー、噂の下界の民?」「モモ、仲良かったんだ」「下界の女の子たちって不思議な服着てるね」とあまり嫌な顔をしない。
リーダーであるグラーヴィアさんがそうだからか、皆明るく懐が広いのかも。
……あれ、今ナチュラルに僕、女の子判定された?
「そう言えば、僕らも途中でゴーレムの残骸を見たよ。腕だけであれなら、10メートルくらい? はありそう」
「やっぱりそれくらいはあるよね。もう、災厄だけでも大変なのに」
地味にメートルという単位が通じたのにびっくり。
グラーヴィアさんは腕を組んでいかにも私怒ってますよ、といった感じの表情を作る。
僕は咄嗟に視線を反らした。まさに紳士。なのにリサから一瞬めっちゃ冷たい目で見られた。
「あれ? そのゴーレムって悪魔じゃないの?」
リサが疑問を口にすると、グラーヴィアさんは困ったように眉をひそめた。
「うーん、悪魔って、暗黒の大地から産まれる“生き物”なんだ。他の地方にいるのも移り住んだだけ。だから見た目って色が違うくらいで、そんなに大きな差はないの。でもあのゴーレムは明らかに生き物じゃないし、悪魔で一纏めにはし難くて」
「確かに、なんかナイフとか銃もあったし、完全に誰かに作られてるよね」
「ジュウ?」
あ、聖界って銃ないんだっけ。
「えと、超ものすっごいスピードで避けられないレベルの金属の塊をぶっ放す投擲用の筒……的な?」
「うわー、そんなのあるんだ。ただでさえおっきいのに、それはちょっと厄介かも」
ちょっと厄介で済ませてしまう辺り、この聖天使さまも規格外なんだろうな。
十分に休憩をとった後、モモさんが「グラーヴィアさま、そろそろー」と声をかけた。
初対面の時は寄生されてたけど、部隊では副官的な立ち位置っぽい。
「よーし、じゃあ皆。集落に戻るよっ」
体調の号令だけど、聖天使さん達はびしっと敬礼ではなく「はーい」と和やかに返事をする。序列はそんなに厳しいものではないようだ。
調査はひと段落ついて、物資の補給のために拠点を戻る途中だったため、僕たちも連れて行ってくれるとのこと。
行軍は基本飛行してなので僕はモモさんに、リサはグラーヴィアさんにお姫様抱っこされた状態で。
「うおー、すっごい! アタシ空飛んでる! グラさんありがと、超楽しい!」
「あはは、喜んでくれてなによりだよ。もっとスピード上げよっか?」
リサはご満悦だけど僕は若干ダメージが入ってる。
うう、男なのにお姫様抱っこ……。加えてモモさんは僕の予想外の重さにびっくりしていた。
「おもっ⁉ キョウイチさん、重くないですか⁉」
「ごめんね。僕、体重は結構あるんだ」
細身ではあるけど鍛えてるから脂肪少な目で筋肉もある。
だから服を脱ぐとわりと細マッチョ気味だ。プールの時間に「神崎は脱いだら解釈違い」と言った男子を僕は絶対許さない。
空から見える景色は広がる砂漠と壊れたゴーレムだけだから綺麗とは言い難かった。
でも速度はかなり早く、熱い風が肌を流れていく感覚が気持ちいい。
「すごいね、空を飛べるって」
「私たちはこれが普通だから、あんまり気にしたことないですけどね。どっちかというと、下界の生活の方がいいなーってなります」
にっこり笑顔なモモさんが眩しい。
他の天使さん達も「あ、私も私も!」「ロリルティニアさまから下界の話を聞いてー」と、僕たちに話しかけてきてくれる。
「お、なになに。そういう話ならアタシも混ぜてよ、最近の面白スポット色々教えちゃるけん」
リサも乗っかって話を盛り上げようとする。
いやいや、一応調査が目的なんだから落ち着いて、と言おうとしたその時。
「ふぎゃっ……!?」
聖天使部隊の一人、その体が揺れ、少量の血が飛んだ。
動揺が走り、さらにもう一度。今度は羽根に小さな穴が開き、天使さんが力なく落下する。
僕は一瞬なにが起こったのか分からなかった。リサも呆然と口を開けている。
事態にいち早く適応したのは、グラーヴィアさんだった。
「なにか、小さな塊っ! それがレシスカに当たった! みんな、地上に降りるよ!」
レシスカ、というのがあの聖天使様の名前なのか。
名も知らない天使が怪我を負った。いや、頭だということを考えれば、怪我だけじゃすまない。
降下中、戦闘部隊の天使さんたちが、当たり前のようにグラーヴィアさん達の前に出た。
「ひ、あっ!」
今度は違う天使さんの右肩。
その傷口を見て、創作でしか知らないとはいえ、僕は攻撃の正体を察した。
「銃弾だっ!」
その瞬間、リサが視線を砂地に移す。
彼女はソシャゲ三昧な僕より目がいい。格闘技の経験のおかげで動体視力も。
「一瞬だけど、見えたよ! ゴーレムの残骸に隠れた、軍服っぽいのを着た人間がいた! なんか長い銃みたいなの持ってる!」
「人間って、下界の民ですか⁉ なんで熱砂の海にっ⁉」
「アタシもわっかんないよ!」
たぶんスナイパーライフル。軍服の男は、明確に天使さん達を狙った。
慌ててはいるけど、砂地に降りたモモさんは僕やリサを守るように立っている。
普段は朗らかな雰囲気とは打って変わった、戦う女性の顔だった。
「なんでもいいよ、大体の方向さえ分かれば!」
でもそれ以上の激情を見せたのはグラーヴィアさんだ。
明確な怒りを瞳に宿した、ゴーレムの残骸を目指して低空を高速で飛ぶ。
撃ってきた軍服の男もそれを察したようで、顔を出してライフルを構え、即座に撃った。
「邪魔だぁっ!」
けれど無意味。
どれだけの反応速度があればできるのか。
彼女は自身の向けて放たれた銃弾に向けて軽く剣を振るい、銃弾を溶かしてしまったのだ。
「ひっ、この、鳥のバケモンがっ!?」
「撃てっ! 殺しちまえ!」
隠れていた男が二人、出てくると同時ハンドガンの銃口を突き付ける。
たんっ、たんっ、と軽い音が聞こえた。
でもグラーヴィアさんには一切動揺がない。銃を見るのに初めてのはず、なのに冷静でいられるのは多分見えているから。
彼女は銃の対策を知っているのではない。ごくごく単純に、小さな鉄の塊が飛んでくるから避けて反撃に移っている。
彼女は悪魔を相手取ってきた、聖界一の剣士だ。重火器を装備した程度の人間では娼婦にはならなかった。
剣を使うまでもない。拳と蹴りだけで男たちは意識を刈り取られた。手加減はしてるだろうけど、骨も折れたかもしれない。
ならず者たちは簡単に無力化された。
だけど、そこで終わりではなかった。
狙われたのは僕たちの方。さらに追加で四人、軍服の男たちが突っ込んでくる。
でも統一された装備じゃなくバラバラの意匠だった。
しかも、あれはバイク? 砂の上を走る、浮遊するタイヤのないスクーターみたいな不思議な乗り物に乗っていた。
銃も持っているが、撃つつもりはないのか銃口はこちらに向けていない。
代わりに高速で近付き、天使さんやリサに手を伸ばそうとする。
最初のライフルも、頭ではなく肩や翼、命に別調のないところが狙われた。
つまり奴らの狙いは、命でも物資でもなく、見目麗しい彼女たち自身だ。
グラーヴィアさんは怒って拳を振るったけど、他の天使さん達は男たちへの攻撃を躊躇った。
彼女達も戦闘隊員、戦えない訳ではない。
抵抗できなかったのは、下界の民に暴力を振るうのは、という聖天使としての常識だ。
だから、動くのは暴力に躊躇いのないヤツがいい。
距離が近付くのはおあつらえ向きだ。
タイミングを合わせて、搭乗者の首を狙っての回転肘打ち。そのまま地面に転がって、フローターだけがすっ飛んでいった。
「や、野郎!」
思わぬ反撃に激昂した男たちが、僕に銃口を向ける。
そこで天使たちも動き出した。抵抗しないと殺されると察したのだ。
「そぉれ!」
モモさんが、空間から武器を取り出して振るう。
身の丈ほどもある長柄のハンマーが彼女の得物だ。男はスピードに乗っていただけに、いい具合に叩き潰された。勿論生きてはいるよ。
「おぉ、モモさんすごい!」
「へへー、これでもパワータイプなんですよ、私っ」
その間にもう一人、僕は突進してくる軍服を砂に沈めた。
飛び付いてのフランケンシュタイナー。脳天を地面に叩きつける技だけど、地面は砂だし特に問題ないだろう。
一気に劣勢になった軍服集団。拳銃を撃とうにも、槍を使う天使さんがそれを破壊してくれた。
最後の悪あがきか、武器を持っていないリサの背後に回り、首に手をかけてそのまま攫おうとする。
「背後に、蹴りが届かないわけないっしょ!」
でもリサは振り返りもせず、足を大きく振り喘げて、つま先で男の顔面を蹴り抜いた。
テコンドー選手並みの股関節の柔軟性だ。
最後の一人も倒れ、砂漠の小競り合いはどうに片付いた。
総勢七人を縛り上げ、撃たれた天使たちに応急処置を施した。翼や肩を射抜かれたが体内に弾丸は残っていない。傷こそ深いものの、死者は出ていない。
端から殺す気だったなら、こうもうまく上手くはいかなかった。
誘拐を重視した行動だったから撃退できた。何故僕に銃口が向けられなかったのかは、考えないことにした。
グラーヴィアさんが意識を失った男たちを見て頬を膨らませる。
「もう、なんなのこの謎集団さんたち!」
さっきまで物凄い立ち回りをしていたとは思えない、ちょっと可愛らしい怒り方だった。
まず基本として、聖界のレゾンデートルに主人公以外の人間は登場せず、男なんて影も形も出てこない。
だから、聖天使たちが彼らを知らないのは当然だった。
でも僕は彼を、正確に言うと彼らの使用した装備について知っていた。
「砂上を走るサンドフローター、このデザイン……【熱砂騎兵】のものだ」
「……それって」
嫌な予感がしたのか、リサが頬を引きつらせる。
「これも、サ終したソシャゲの一つ。砂漠を舞台に繰り広げられる、シミュレーション」
「だから銃とかバイクみたいなのもあったってこと?」
「ヤバい、ヤバいよ。だから、ゴーレムだったんだ」
「え、キョウくん、なんでそんな焦ってんの? そんなに強いヤツ出てくる系」
「強いとかそういうレベルじゃない」
僕は本気で焦っている。
だって熱砂騎兵は、シナリオ上でこそサンドフローターでの高速戦闘や、ナイフを使ったクロスコンバット、激しい銃撃戦などが描かれる。
でもゲームシステムとしては。
「熱砂騎兵は、砂漠を舞台に繰り広げられる巨大ロボットの戦いがメインの、バトルシミュなんだ……!」
道理で残骸のデザインに見え覚えがあるはずだよ。
グラーヴィアさん達が見たのゴーレムじゃなく、パイロット搭乗式の人型兵器なのだ。
サ終したソシャゲが僕に助けを求めている 西基央 @hide0026
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