おねえさんのおうち
永久保セツナ
おねえさんのおうち(1話読切)
私の体験した、少し不思議な話を聞いてほしい。
小学生の頃、朝の六時くらいに早起きしたので、朝食前に一人で近所を散歩したことがあった。
近所の猫屋敷を通ると、その猫屋敷に住んでいるおばあちゃんと、犬の散歩の途中らしい若い女性が会話しているのを見かけたのである。
私の生まれた地域はけっこうな田舎で、方言がきつい。
そのおばあちゃんも、訛りが強くてほとんど何を言っているのか分からなかったりする。
犬を連れたお姉さんはおばあちゃんの言っていることがわからないようだが、おばあちゃんのマシンガントークに気圧されて、なかなか会話を打ちきれないらしい。
私はそこに割り込んで、「おはようございます!」と元気に挨拶した。
そして、おばあちゃんと適当に会話を切り上げて、犬連れの女性を助けたのだ。
「助かったわ、ありがとう。犬の散歩中に出会ったから挨拶をしたらそのまま会話が終わらなくて困っていたの」
お姉さんは感謝して、「よかったら自分の家でお茶でも」と私を誘ってくれた。
今にして思うと知らない人にホイホイついて行ってはいけないのだが、この女性からは悪意のようなものを感じず、素直に招待を受けることに。
女性の家の中は整理整頓されており、一緒に散歩していたミニチュアダックスフンドは、私をすっかり気に入ってくれたようで、かなり人懐っこい。
お姉さんにお茶を入れてもらいながら、他愛もない話をして、「そろそろお母さんが家で待っているので」と帰った。朝ごはんもまだ食べていなかったのだ。
しかし、次の日、その女性の家があった近くを通ったが、そこは鬱蒼と草むらが生い茂った場所で、何も無かった。急に家を取り壊した、という感じでもない。
母に「ここに家が建っていなかったか」と尋ねたが、やはり最初から何もない場所だったらしかった。
私は、あの体験は夢だったのだろうか、しかし夢にしてはやけに具体的すぎるなと、今も首を傾げている。
おねえさんのおうち 永久保セツナ @0922
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