第5話
鼻が冷たい。今日は一段と寒い。
こんな日は温かいコーヒーが飲みたい。
そして思い出す……メルちゃんの事を……
「ランチの時間だ。コーヒー、コーヒー」
今日のランチは『 カレー&コーヒー猫丸』だ。
せっかくだからキーマカレー。そしてコーヒー……
「おまたせしました」
キーマカレーと……コロンビアコーヒーだ。
ここ猫丸はカレーに合ったコーヒーを出してくれる。
そもそもカレーとコーヒーの相性は抜群!
特にコロンビアコーヒーは軽やかな酸味と甘味、まろやかなコク、スッキリとした後味。
「キーマカレー可愛い……」
牛挽肉にトマト、ココナッツミルク、10種類のスパイス。
何よりこの丸いフォルム!
真ん中には、ぷっくり温泉卵がのっかっている。
「いただきます」
私は昔コーヒーが飲めなかった。
苦いだけだから……
そしてメルちゃんという猫を飼っていた。
冬の寒い日に、メルちゃんは姿を消した。
私は鼻が冷たくなっても探し続けた。
大人になった今、私はコーヒーの苦味が好きになった。大人になると色んな苦味を飲み込む事ができる。
メルちゃんは帰って来なかった。
その時初めて、猫は死に姿を見せないと、母から聞いた。
「メルはあなたの為に姿を消したのよ」母は言った。
当時の私は、その事実を飲み込めなかった。
大人になった今はメルちゃんに「ありがとう」という気持ちでいっぱいだ。
一緒に過ごした楽しい日々。
そして最後は私の為に姿を消した。私はメルちゃんを誇りに思う。今でも大切な愛猫だ。だがそう思えるまでには、たくさんの月日が必要だった。
苦いコーヒーを美味しいと思えるようになるまでと同じだ。
今の私は苦味を味わい飲み込み、人生に苦味は必ずあって、それは悪い事ではないと思える。
死というものも悪い事ではない。生まれる事と同じく自然なことだ。
大切なのは生まれてから死ぬまでの時間だ。
キーマカレーを食べ終わり、残しておいたコロンビアコーヒーを口に入れると、気持ちもスッキリした。
寒さに負けず、また午後も頑張れそうだ。
「ご馳走様でした!」
せっかくだからカレーでも。 青蛇でれら @huuchian
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