第8話 ありがとう。の当日 中編

「ハァ…ハァ…。」


私は息を切らしながら走って学校に向かう。


(ヤバい…きつ、い。)


周りから見れば、こんな朝から何急いでいるのだろうと思っているだろう。

……聞こえる。

私の話をする声が。


「なぁ。あいつって学年順位トップだった変人じゃね?」

「もったいねー、明るくすればクラスに馴染めるのになー。まぁ、変人だからしかたないか。」

「変人だもんな。もう2年半もいんのにまだ馴染めてねぇーのw?」


聞こえる。

……私を馬鹿にする男の声が……。


「ねぇ。あの子っていっつも下向いてて、なんか暗い子じゃない?」

「あー!あの変人。」

「変人?」

「そう。変人。あたし、話しかけたことあるけど、全然面白くないし、何言ってるかわからないし、はっきり言ってつまんない。」

「変人って妹いるよね。全く似てない。」


聞こえる。

…私の愚痴を言う女の声が。


いつもなら耳に入る声を聞きたくなくて、目に映る表情を見たくなくて、人を避けてきた。

だから、皆から変な奴だと思われてきた。

それからは変人と呼ばれるようになった。

そんな変な奴が走ってるのが何走ってんだ、って思ってるだろう。

でも、今はそんな言葉なんて、表情なんて、声なんてどうでもいい。

そんなたくさんの事がどうでも良くなるくらい、私は必死だった。

チラッと私の事を言う人を見る。


(……私と同じ˹人˼なんだな。)


すぐに目を逸らし、目的地に目を向ける。


(私は……あの人達と同じ˹仲間˼だったんだ。

もう、あんな人達と仲間になりたくない。)


余計な事は考えないと首を振り、走った。

それから10分くらいだろうか。

学校についた。


(よし!)


昇降口に入り上履きに履き替え、階段を登る。

教室は4階にある。


(……なんで4階なんか作ったの〜!エレベーターかエスカレーターどちらでもいいからつけてくれ〜!)


と願う。

が、しかしそれは叶わないだろう。

聞いた事がある。

この学校はあまりお金がないんだと。

その噂かどうか分からない話にため息をつく。

床に何階と書いているのを見ると、2階と書かれていた。


(2階……はぁ……。)


走ったせいもあって、いつも以上にキツい。


(あと2個しかない!)


ポジティブ思考にして登ろうと考えた。

だが、それはすぐに終わった。

うぅ……一生つかない……とネガティブ思考になっていた。


(やっと3階……)


ハァハァと息が上がっていると、


「だ、大丈夫!?」


と声がした。


「……?」


後ろを振り返るとそこには優さんがいた。


「……え!?ゆ、優さん?」


思わず後ずさりしてしまった。


「うん!優だよー!」

「なんでここに!」

「え?いや同じ学年でしょ!」

「……そっか、そりゃそっか。」

「うん!……ていうかタメ口になったねw」


アハハ!と優さんが笑う。


「まっ、まぁ……。」


と、曖昧に誤魔化す。


(口が裂けても、心の中の会話はタメ口なんて言えない!)


そう考えていると、何かが目の前にあった。


「ほい。」


優さんが手をだす。


「?」


だされた手の意味が、分からなかった。


「疲れてるんでしょ?だから一緒に登ろ?手貸すから!」

「ありがとう……。」

「いいよいいよ!」


優さんは私の手を掴んで、階段を登る。

私が止まって動けなくなった時は、引っ張って起こしてくれた。


(……本当に優しいな。……は!)


思い出したタイミングと同じ時に教室についた。

話そうと思ったが、優さんが話すタイミングの方が少し早かった。


「あの──────」

「ねぇ。」

「…何?」

「何組ー?」

「あっ、えっと1組。」

「えー!残念……。私3組。」

「離れるね。」

「まぁ、大丈夫!なにかあったら1組にいくから!」


優さんがガッツポーズをする。


「ありがとう!……あの、放課後会える?」

「うん!大丈夫だよー。」


心が高鳴った。

嬉しかった。


「じゃあ、放課後1組で!」


そしてバイバイと手を振り、教室に入った。












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