街の魔導書屋は星を見ない

とある猫好き

星読みの魔女の話

 曰く、その世には全ての権威が恐れる図書館があった。例えどれほどの年月が経過しようとも決して埃被らず、古今東西のあらゆる本が保管されている、そんな図書館。

 その図書館を実際に見たという人は数知れず。そうして人々はその図書館を畏敬の念を込めて伝承に残し、その伝承は形を変えて今も残っている。

 大陸の端から端まで、その図書館の噂と伝承を知らない者はいない。



「土は人が生み出す数多の奇跡を。木は原初の炎と街の始まりを。石は降り止まない雨と血を。鉄は開花と束の間の自由を。そして夜空に棲む星読みの魔女は人々の願い、決意、そして行動を」


 「───覚えている」







 ここは鉄と夢の街、ケイリンス。この街に足を踏み込む者は、煙と油の匂いが一週間も取れないことを覚悟する。だがそれだけあって、この街が生み出す品質の高い鉄武器はどの国でも需要がある。


 特に戦争が始まる緊張が高まる今、鉄武器の需要は最骨頂に達していた。


 ここでは奴隷制度がない。いつも人手不足に悩まされているケイリンスには出自や身分は関係ない。そのため、ここでの扱われようは千差万別で、スラム街出身の子供が金槌を持ち、大の大人を配下として使っているケースもある。




 ───そんな活気あふれた街の中、人々の怒号や鉄を叩く音も届かない、そんな街外れた狭い路地。そこに一つの古びた魔導書屋が建っていた。



 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!


 そこにあるのは数多の夢。


 切羽詰まった人たちが最後に頼る店。


 そこで一人の盲目な魔女がパイプを蒸し、次に訪れる客を待っている。



 「あなたも一冊いかが?」

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街の魔導書屋は星を見ない とある猫好き @yuuri0103

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