怖そうで怖くない少し怖い

影神

近所の優しいおばあちゃん



小学生の時。


いつも学校から帰ると。


近所に住むおばあさんがお菓子をくれた。


「ただいまー」


おばあさん「お帰りなさい。


学校は楽しかったかい?」


「まあまあかな?」


おばあさん「そうかい。


はい。お菓子。」


「ありがとうおばあさん」



こういうルーティーンが出来たのは、


ある日の出来事からだった。



僕が当時住んで居たのはボロアパートだった。


その2階の一番右端だった。


ある時いつもの様に学校から帰ると、


2階へ上がる階段の所でおばあさんが居た。


おばあさん「こんにちわ」


「こんにちは、」


おばあさんは買い物帰りなのか。


両手に袋を持って居た。


上がらないのかな?


なんて思いながら階段を数段上がった時。


その日の道徳の授業で先生から教わった事を、


僕はふと思い出した。


先生「困ってそうな人が居たら。


見てみぬフリをしないで。


自分から少し勇気を持って声を掛けてあげなさい。


そうしたらもし。自分が困って居た時に、


助けてくれるかも知れないから。


人はね?支え合って生きる生き物なんだから。」


僕は勇気を振り絞ってその通りに声を掛けてみた。


「あの、、」


おばあさん「え?」


「それ。運んであげようか?」


するとおばあさんはニッコリとしながら。


おばあさん「良いのかい、?


ありがとうね?」


と、返してくれた。


「うん!


貸して?」


おばあさんは片方の荷物を渡す。


「もういっこも。」


おばあさん「重いけど、大丈夫かい?」


「うん!」


おばあさん「まあ。力持ちなんだねぇ、」


僕が荷物を自慢気に持ちながら階段を上がると。


おばあさんはゆっくりと階段を上がった。


おばあさん「ちょっと。待っててね、?」


「ゆっくりで大丈夫だよ。」


おばあさん「ありがとう。」


一段。一段とゆっくり階段を上がって行った。


ようやく上がり終えた時。


僕はおばあさんの家の場所を聞いた。


部屋は5部屋あって僕の家と隣は違うから、


残り3つの何処かの部屋だった。


「おばあさんの家何処?」


おばあさん「ここだよ?」


おばあさんが指したのは、


階段を上がって直ぐの部屋だった。


「階段から近くて良いね?」


おばあさん「そうだね?」


何て笑って居た。


僕がおばあさんに片方の荷物を渡すと。


僅かに開けた扉から荷物を部屋の中に入れた。


もう片方の荷物を渡し、


「じゃあ。またね、」


と、自分の家へ帰ろうとした時。


おばあさんが僕を呼び止めた。


おばあさん「ちょっと待って?」


扉からしわしわの細い手が伸びると。


おばあさん「はい。お菓子。」


「良いの?」


僕は嬉しかった。


お菓子なんて滅多に食べられないからだ。


おばあさん「ありがとうね?」


「うぅん!また困った事があったら言ってね?」


おばあさん「はいよ。」


そう言って別れた。



それから時々そんな状況があって。


その度に僕はおばあさんの荷物を運んだ。



そうする内に帰って来たら挨拶をする様になった。


「ただいまー。」


おばあさんの家のおかっての窓はいつも開いていて。


僕は外から声を掛ける。


おばあさん「お帰りなさい。


学校は楽しかったかい?」


こうして当たり前の様に関わって居た。



当時の家は母子家庭で。


学校が終わったら真っ直ぐ帰る事。


帰って来たら手洗いうがいをして、


宿題が終わったらテレビを見る事。


誰か訪ねて来ても絶対に開けない事。


その3つがお母さんとの約束だった。



おやつなんて無いから、


僕はおばあさんから貰ったお菓子がおやつだった。



けれどある日。


ゴミ箱の中にあったお菓子の袋で、


お母さんにお菓子を貰って居る事がバレてしまった。


お母さん「知らない人から貰った物を、


食べちゃ駄目。って言ったでしょ!!?」


僕は怒られてしまった。


お母さんはそのままおばあさんの家に行って、


大きな声でおばあさんに怒鳴った。


家の中に居てもその会話は聞こえた。


お母さん「うちの子供にお菓子を与えないで下さい!」


おばあさん「ごめんねえ。


私が勝手にやった事だから。


あの子に怒らないで、?」


僕はおばあさんに悪い事をしたと思った。


お母さんは家に帰って来るなり、


あのおばあさんとは関わるな。


と、そう強く言った。



次の日。


家に帰るのが憂鬱だった。


おばあさんに申し訳無かったからだ。


「どうしよう、、」


そう思いながら静かに階段を上がった。


階段を上がり終えると。


おばあさんの家の扉がゆっくりと開いた。


おばあさん「僕。ごめんね、?」


おばあさんは申し訳なさそうに謝った。


僕は涙が出てしまった。


「僕の方こそ、ごめんな、さい。」


そうしておばあさんとある約束をした。


約束というか、秘密みたいなモノだ。


これからもいつも通り。


帰って来たら挨拶をして。


おばあさんからお菓子を貰ったら。


その場で食べて。


お菓子のゴミをおばあさんに渡す事。



僕はお母さんにまた怒られる事が怖かったから、


その事を伝えると。おばあさんは、それは寂しい。


と言った。


手を洗ってからじゃないと食べれない事を伝えると、


下にある水道で洗ってから上がって来ればいいと。


そう言った。



今の時代では考えられないし。


でも昔はそういう時代だった。


おばあさんが寂しいのは表情で分かったから。


僕は言い付けを破る事への罪悪感もあったが、


おばあさんとの関わりを大切にしたかった。



こういう経緯があって僕とおばあさんの関係は、


より深いモノになった。



「ただいまー」


おばあさん「お帰りなさい。


学校は楽しかったかい?」


「まあまあかな?」


おばあさん「そうかい。


はい。お菓子。」


「ありがとうおばあさん」



でもその関係にも終わりが訪れる。



お母さんがある日男の人を連れて来て。


その人が新しいお父さんになる事になった。


それと同時に引っ越さなければならなくなった。



僕は悲しかった。


おばあちゃんの居ない僕には。


おばあさんが本当のおばあちゃん。


くらいに、想って居たからだ。



おばあさんにその事を伝えると。


おばあさんは悲しそうに。


おばあさん「そうかい、。


寂しくなるね、?」


と。部屋から出て僕を優しく抱き締めてくれた。



引っ越しの日。


お母さんの手前。


おばあさんに挨拶が出来なかったが。


おかっての網戸からおばあさんがニッコリと。


あの優しい表情で手を振って居てくれた。



「バイバイ、」



僕はおばあさんに静かに言った。



何年か経って。


たまたまその場所を訪れた時。


あのおばあさんの事を思い出した。


でも会おうとはしなかった。



あれからもう何十年と経ち。


今や僕も大人になった。



お盆の帰省でふとその事を思い出し、


あの時の出来事をお母さんに話した。


お母さん「あぁ。そんな事もあったわね。」


「優しくて良い人だったよ。」


お母さん「あのおばあさんね、?」


お母さんから言われた事に僕は耳を疑った。


お母さん「私達が引っ越す結構前に。


おばあさん。亡くなったのよ。」


「、、え??」


お母さん「身寄りも無かったみたいで。


あの時はつい怒っちゃったけど、、


今思えば。きっと。寂しかったんだろうね、、


孤独死


だって。


玄関にはお菓子のゴミが散らばってて、、」



僕は今でも。


あのおばあさんを。


本当のおばあちゃんの様に慕って居ます。



そんな僕の怖そうで怖くない少し怖いお話でした。



























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怖そうで怖くない少し怖い 影神 @kagegami

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