変わらない幻想を信じていたいお年頃だから
うだるような暑さの中で、黒い喪服が、じわりじわりと汗を吸っていく。
コンビニでアイスを買おう、という思考回路は、相変わらずお互い様のようで。
お会計を済ませて外に出ると、幼馴染は一足先に退色した赤色のベンチに座ってアイスを齧っている。
なんともなしに、日差しでぬるくなったベンチに、並んで座る。
「よ」
「久しぶり」
「今年、初盆だって?」
「そう。そっちも?」
「今年の2月にね」
アイスの袋を破る。
子供じみたくじ付きのアイス。
幼馴染も、どうやら同じ選択のようで。
「おじいちゃん、大変だったね」
「そうでもないよ。大往生だったし。そっちは?」
「うちもまあ、似たようなもん」
しばし、間。
言いたいことが、喉に引っかかって、出てこない。
口を開く代わりに、アイスを齧る。
ひんやりとしたチープな甘みが口に広がる。
「あ、そういえばさ、同窓会のお知らせ来た?」
「・・・来てない」
「おっと」
間違いなく気まずい沈黙が流れる。
東京にいる私にはお知らせが来て、地元にいる君にはなんで案内が来ないんだ。
「なんかさ、やたら力入っててさ」
踏んづけた地雷は、踏み抜くしかない。
「へえ」
スマホを取り出して、いつ登録されたのかもわからない、大して仲も良くないスクールカースト上位の元ギャルから来たLINEのトーク画面を見せる。
パンフレットと見まごうかの如く気合いの入ったバーベキューのお知らせを、興味なさそうに眺める幼馴染の横顔。
汗が流れ落ちていく。
「結構良い値段設定だね」
「うん。てかさ、バス貸切ってやばくない?」
「これ参加する予定?」
「いやさ、だってこれ、親子連れOKってあるし、なんかどうせあれでしょ。
陽キャの家族連ればっかのところに単身乗り込むなんてやじゃない?」
「ああ、確かに」
「それならさ、フツーに飲み行く方が良くない?」
「あー言えてる」
そしてまた、無言。そっとスマホをしまって、向き直る。
アイスがじわりじわりと溶けていく。
気まずさを誤魔化すように、溶けた雫を舌で受け止める。
しゃり、しゃり、と咀嚼する音が小さく響く。
入道雲が真っ白く青々と照らされた空に聳え立っている。
「いやー、今日も暑いね」
「こっちはこの前、最高気温40度超えたんだっけ」
「そう。温度計の位置に問題あるって噂もあるけどね」
いつから、他愛のない会話で何時間も話せなくなっちゃったんだろう。
もう君は、早く帰っておいでと私に言ってくれない。
アイスの残り時間が、だんだんと少なくなっていく。
湯船のような空気の中で、駆け足でアイスが溶けていく。
「ねえ、今日の夜、暇?」
「ん、まあ、時間はあるよ」
どうせ、変わってしまうなら。
「飲み行こうよ」
「どんなんが希望?」
「えーとね、日本酒が飲めるところ」
変わらないでいられる幻想が、終わりを迎える夕暮れのようなこの時間を。
変わってしまったことから目を背け続ける私たちの青春を。
もう少しだけ。あと少しだけ。
「じゃあ駅前の店行くか」
「やったー」
「18時にうちの前集合でいい?」
「オッケー」
ついに食べ終わった、アイスの棒を太陽にかざす。
ハズレの文字が揺れる。
「じゃ、そろそろ戻りますかー」
幼馴染が立ち上がる。
その背中を追いかけて、歩き出す。
コンビニから帰る、たった5分間の道のり。
私はあと何回、君の隣を歩けるだろう。
どうか、あともう少しだけ。
わがままでいさせて。
恋とか愛の話(短編まとめ) No.37 @No37
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