エピローグ

そして、高校の卒業式の日からおよそ8年が経った。


俺は大学に入った後、なんとか留年することなく6年でストレートで卒業することができ、そのまま2年間の初期臨床研修を修了した。

大学の勉強や医師国家試験はキツかったし、友達や周りの人は恋人を作り楽しく過ごしているのを見ると気が沈むこともあったが、楽しい8年間となった。


そして25歳、遂に俺は念願の外科医となった。

外科医になるという夢を持ってから9年後のことだった。

その日は雲一つない快晴の日だった。

空がどこまでも澄み切っていた。


外科医として配属されることが決まった日、俺は咲の墓に行った。

たくさんの花を抱えて。


もちろん外科医になったことの報告だ。そして…

「よー咲、久しぶり」

「俺、初期臨床研修終わって、遂に来月から大きい病院に配属されるよ」

「俺、外科医になっちゃった。夢叶えちゃった」

「ほんと大変だったぞ、勉強はやたらと難しいし実習はグロいし」

「きっと咲の応援のおかげだな、ありがとな」


「あと、実は今日はもう一つ言いたいことがあってさ」

「…っ」

声が出ない。

体が強張る。

「俺さ」

声が上ずってる。

「実は大学時代に何回か告白されたんだよ。女の子に。もちろん全部断ったけど」

「友達からももったいないだの逆張りだの言われたんだよ」

「咲」

「俺…」

落ち着け。ゆっくり…ゆっくりだ。

あぁ…面と向かって言ってるわけじゃないのにここまで緊張してたら…そりゃ直接伝えるのは無理だよな。

「俺…咲が好きだよ」

「ずっと咲のことが好きだったよ。中学生の頃…いやもっと小さい頃から。いつも咲に元気をもらってた。いつも咲のおかげで前を向けた。咲がいてくれたから、今の俺があるんだ。

咲の顔が近づく度にドキドキした。飛行機で咲が手握ってきた時、心臓破裂するかと思った。

ごめんな…俺はバカだよ。咲がいなくなって初めて…今更気付いたんだよ。俺にとって咲が、この世の他の誰よりも大切だって」

「咲…大好きだよ。こんなバカで…ごめんな」

あぁ…やっと言えた。

10年以上温め続けた、この気持ちを。

端から見たら、俺は石に愛の告白をする狂人だろう。

でも俺は大真面目だったし、それでもう既にいっぱいいっぱいだった。

そこまで言って、涙がこみ上げて来た。

俺は咲の前でだけは泣かないと決めていたから、俺は咄嗟に

「って、25歳が中学生に愛の告白って、ロリコン極まれりって感じかなwwキモいかなww」

そう言って涙を引っ込めた。

…咲には何度も泣いてるところを見せたから、これ以上心配させたくなかった。


こうして俺の決別は終わった。

さ、墓を磨かないとな。


そして、俺は墓をピカピカにし終わった。

「あー終わり終わり…綺麗になったぞ、咲」

「じゃ、帰るわ…またな」

「咲」

「もしまた会えるようなことがあったら…俺がそっちに行けたら、また同じことを言うから」

「その時に…返事聞かせてくれ」

「それと、俺はもう…大丈夫だよ」

「これからも強く行きていくつもりだから、よかったら見守っててくれ」

「じゃあな」

そして俺は咲の墓に背を向けた。

妙な達成感と余韻と共に。

恋なんて呼ぶには遠回りしすぎたよ。

…咲も、同じ気持ちだったらいいな。




風が立つ。

太陽が照り付ける。

夏を全身に感じながら、俺はまた歩き出した。

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その呪いを抱きしめて @Cyan_theReaper

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