最終話 夕焼け

そして時は流れ、遂に卒業の日を迎えた。

3年ぶりの卒業式の緊張感に包まれつつ、俺は卒業証書を受け取った。

なんだかんだ楽しかった高校生活が終わる少しの寂しさと、これから始まる大学生活への期待とわずかな不安を抱えて、俺は谷ヶ丘を旅立った。

本当に、濃ゆい3年間だった。

彼女はいないし友達も少なかったが、充実した3年間だった。


卒業式が終わり、俺は一人教室に残っていた。

一人黄昏れるのは好きだ。

「あっ、東雲君いた」

「龍起!!卒業おめ!!」

「おう裕希、葵、卒業おめでとう」

「東雲君も!おめでとう」

「ほんと良かったわ…俺1年生の時は本気で留年の危機だったからな…」

「お前あの時マジで成績終わってたもんなww俺も安心したわwwそれが今は神禄医学部だもんな…すげぇわ…」

「勉強頑張って良かったじゃん」

「そうだな」

そう、俺はあの後猛勉強してなんと国内最難関神禄大学医学部に現役合格を果たした。

本当に今でも信じられない。

「でも俺だけの力じゃない」

「2人とも、2年生の時勉強教えてくれたり励ましてくれたり、なんだかんだ一緒にいてくれたり、本当にありがとう」

「龍起がこんなこと言うなんて…感動して泣くわ」

「めっちゃニヤニヤしてるじゃねぇか」

「そりゃニヤニヤもするっしょー!」

「フフ…」

「?」

「?」

「2人の会話面白いね…コントみたい」

「割と最強コンビみたいなとこある」

強引に肩を組みながら、ドヤ顔で裕希はそう言った。

「なんだよ最強コンビて…」

俺は半ば呆れて、半ば微笑ましくて言った。


そして3人で笑った。

高校3年間で一番、青春してると思った。


「じゃ、俺部活の打ち上げあるからこの辺でお暇するわ!!じゃ!!」

「調子乗って店に迷惑かけんなよ」

「じゃ、またね」

「おう!!2人とも元気でな!!また遊ぼうぜ!!」

「もちろん」

「んじゃ失礼しまーす!お疲れ様でしたー!!」

そう言って裕希は教室を後にした。

相変わらず嵐のような奴だ。

そして俺は葵と2人きりになる。


「」

「なぁ葵」

「ん?」

「」

「一緒にいてくれたり少しだけ…少しだけ咲に似てると思った。」

「そっか」

「おかげ様で元気出たよ!本当に…ありがとう!」

「ねぇ東雲君」

「ん?」

「よかったら…咲さんのお墓に連れて行ってくれないかな?」

「うん、分かった。葵には世話になったし、咲に紹介してやらないとな」

「ありがとう東雲君」

「じゃ早速行こっか」

「うん」


俺の家の最寄り駅から徒歩約10分。

古びた小さなお寺の共同墓地に、咲は眠っている。

「こちらです」

「これが…咲さん?」

「うん」

「ピカピカ…これ東雲君が?」

「俺だけじゃなくて咲の親も磨いてるけど、俺も結構頑張って磨いてるよ。」

「やっぱり一番大切な人には、綺麗でいてもらいたいじゃん?」

「そうだね…」

「久しぶりだな咲、今日は暑いなぁ…こちら汲みたての冷水になります…掃除ついでにプール気分どうぞ」

そう言って俺は墓に水をかける。

「俺神禄の医学部行くことになったわ、すげぇだろ…あの神禄医学部だぞ、日本一だぞ、俺頑張ったんだぞ」

「東雲君」

「ん?」

「遮っちゃってごめんね。私も咲さんに伝えたいことがあるんだ、ちょっといいかな」

「あぁ、咲も退屈しなくていいだろ…お願いするよ」

「…咲さん。初めまして、私東雲君のお友達やらせてもらってます、若松葵っていいます。」

「ここ2年間、東雲君のことを見てきました。間違いなく彼なりに、色々なことを必死に頑張っていました。」

「これからも、どうか東雲君を見守ってて下さい、お願いします」

咲の墓にはっきりとそう言った。

「葵、ありがとう」

「」

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