第26話 懸念と未来へ

……2度目の改変から帰還した私は、早々に部屋に籠ってしまった……。

ベッドに寝転び、最初にグロースと出会い戦った事を思い出す。

「私と凛子さん一鉄さんの3人がかりで戦っても致命傷は負わせられなかった……動きは単調だったけど、厄介のはあの再生能力……」

1つずつ、丁寧にあの時の事を思い出していく。

「あの時……私じゃない私がグロースを倒した時、今の私じゃ使えない付与を使ってた……」

深く、深く思い出そうと意識を集中すると、奥の奥に微かに黒い炎が見え、私は炎を掴もうと手を伸ばす──。

「…………っ!!」

後少しで手が届くというタイミングで、スマホの着信音が鳴り、一気に現実に引き戻された。

画面を見ると、紫苑さんからの着信だった。

「はい、どうしましたか?紫苑さん」

『天音に伝えたい事がある……俺の部屋まで来てくれ』

電話口から聞こえた紫苑さんの真剣な声に心臓が脈打つ──。

「分かりました、すぐに行きます」

部屋を飛び出し、紫苑さんの元へ向かう。

紫苑さんの部屋の前に着いた私は、ノックする事も忘れて部屋に入る。

「早いな、とりあえずそこに座ってくれ」

「はい」

紫苑さんのいつもと変わらない様子に、高ぶっていた気持ちが落胆するのを、何事もないなら良かったと自分に言い聞かせる。

「ほら、紅茶」

紫苑さんは慣れた手つきで紅茶を2つ淹れて、1つを私に差し出した。

「あ、ありがとうございます」

受け取った紅茶を、そのまま口に運ぶ。

紫苑さんは、私の向かいに座るとジッーっと私を見つめてきた。

「……あ、あの私に何かついてますか?」

視線に耐えられなくなった私は、勇気を出して口を開いた……。

「いや、その紅茶美味いだろ?」

「え?あ、はい、美味しいです……」

「だろ!この茶葉は俺のお気に入りなんだ!」

前のめりになった紫苑さんはそれを皮切りに紅茶について熱く語り始めた。

語り終えた紫苑さんは、満足そうな笑顔を浮かべた。

「……紅茶好きなんですね……」

「ああ、マニアとかじゃないが好きだな」

自身はただ紅茶が好きというが、私から見た紫苑さんの気迫は紅茶オタクと言っても過言ではなかった……。

「他の奴等はあんまり話に付き合ってくれないからな……ありがとうな天音付き合ってくれて」

「いえ、結構楽しかったので大丈夫です!」

勢いに圧倒されたものの、紫苑さんが話してくれた、紅茶の豆知識は覚えておいて損は無いものばかりだった。

「さて、そろそろ本題だ……天音、悔しかっただろう?」

「え?」

紫苑さんからの問い掛けの意図が分からず、すぐに返答が出来なかった。

「今日の改変、撤退命令が出て……悔しかっただろう?」

問い掛けの意図が理解出来た私は、膝に置いた手を強く握る……。

「はい、目の前のチャンスを掴む事が出来ない歯がゆさ……悔しさ……今の実力では、異能を暴走させない限りグロースを倒せない事も……頭では分かっています」

胸の中に隠していた思いを、一気に吐き出す。

「そうだ、今の俺達ではグロースには勝てない天音の事を思えば行かせてやるのが優しさだったのかもしれない……だが、俺は天音を失いたくないだから、優しくなくても、天音に怒鳴られても、俺は、俺の選択は正しかったと自信をもって言える」

紫苑さんの胸の内を初めて聞いて、胸の奥が熱くなるのを感じた。

「ありがとうございます……悔しさはありますが紫苑さんの選択を間違ってるとは思いません」

はにかむような笑顔で、紫苑さんは私の頭を撫でた──。

「ありがとうな……ころころ話が変わって悪いが、さっき水輝達も戻ってきたんだが、水輝達方にはグロースは出なかったそうだ、ただ天使達の猛攻撃でやむを得ず戻ってきたらしい」

「そうなんですか」

「その反面、天音は1度目も今回も天音の自宅周辺でグロースと出くわしてる……まだ断言は出来ないが、もしかしたら何らの力が天音をあそこから遠ざけてるのかもしれないな……」

紫苑さんの話に私は息をのむ……。

紫苑さんの言う通り、2回だけじゃ断言も何もないけれど偶然とは思えないが、私も含め私の家族も特別など何も無い何処にでも居る家族が妨害される理由が見当たらない……。

「俺の方でも出来る限り探りを入れる」

「分かりました、よろしくお願いします」

「思う所はあるだろうが、今は休め」

「はい」

部屋に戻った私は、グロースや家族について考えていた──。

「グロースとの実力差は歴然……グロースが私の改変を妨害する理由も分からない」

──今の状況を脱する答えが見つからず、まるでゴールの無い迷路に迷い込んだような感覚になる。

「……!あの手を使えば!」

迷路の中に一筋の光が射し込む──。

私は計画を実行すべく、密かに夜を待った……。

皆が寝静まってであろう、夜中2時。

私は1人、時の間に立っている──。

「私達八咫烏は、過去・現在・未来を行き来する事が出来る……なら未来に行って未来の私に聞けばいい!」

期待で胸を膨らませながら……。

──私は未来へ飛んだ──。

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八咫烏〜私は、存在を失っても守りたい〜 秀零 @kana1452500

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