第41話 清楚の皮を被ったギャルに可愛いなんて感情は存在しない!

「ごめん、辛気臭くなって」

「いいよ別に、それより冬島の方こそ大丈夫か?」

「うちから話してるし大丈夫だよ」

「そうか……」


 冬島はそう言いながらニコッと笑みを見せてくる。

 その表情は大丈夫、気にするなと言っているみたいだった。


「ただ、アンタには言っておきたくてさ」

「一つ思ったんだけどさ、冬島のお父さんはさ教師になりたいって言ったら拒絶するような人なのか?」

「――――ッ、そんなことはないと思う」

「そうか、なら別に言ったっていいじゃないか」


 冬島は表情を曇らせる。

 先ほど拒絶されるのが怖いと言っていた。


 しかし拒絶するような人ではない。ならどうして躊躇っているのか、なにか他に理由がある気がする。


「思い出しちゃうかなって……お母さんとの日々を」

「それが嫌なのか?」

「嫌っていうか……申し訳ない、色々頑張ってくれてたお父さんに悲しそうな表情をさせたくない」

「教師っていう夢を聞いて悲しくなると……」


 冬島はコクコクと頭を縦に振る。


「教師は自分の夢じゃないのか?」

「話聞いてなかったの? 夢って言ってるでしょ?」

「じゃあなんで、自分の夢なら追いかけようとしないんだよ」

「――――ッ! そ、それは」


 自分の夢なら、何を言われても追いかけるべきものだと感じてしまう。

 俺が夢とか目標とかもっていないから、そういうものであってほしいと願う。


「アンタにはわからないよ」

「あぁわかんねぇよ! お前の夢に対する想いなんてもんはなぁ!」


 俺たちの話は段々とヒートアップして声が大きくなるせいで、周囲の人たちがナニアレという目で見てくる。


「な、なんなの!」

「お前は俺に話を言って背中を押してもらいたかったんじゃない! そっかそれは仕方ないから目指せないねって諦める理由が欲しかっただけだろうが!」

「…………」

「本当になりたいものを目指すってのは、かっこいいじゃんかよ」


 たとえ誰かを傷つけるものだったとしても、自分が目指さない理由にはならないし諦めて自分が傷つくものじゃない。


 勢いで言ってしまったのはあるが、あそこで肯定してしまっていたら冬島は夢を諦めてしまいそうな気がした。


 すると冬島は立ち上がり、片手にバッグを持ちムスッとした表情だった。


「どうしたんだよ?」

「これうちの分のお金、置いておくね」

「お、おい! ちょ、ちょっと待てよ」

「うるさいっ!」


 冬島はそう言うと俺の言う事を聞かずに店を出ていく。

 二人分の支払いを済ませて、彼女の後を急いで追いかける。


(まだそんな遠くじゃねぇけど、家でずっとゲームやってきた俺にはこの距離のダッシュはきつすぎるな……)


 明日は筋肉痛かもしれないと思いながら冬島のことを追いかける。


「ぜーはー、ち、ちょっとまて……は、速すぎだろ」


 不甲斐ないと思いながらも冬島に追いつくことができない。

 膝に手を置き、呼吸を整える。


(汗も気持ち悪いし、疲れたし、水飲みたい……)


 俺は大きく息を吸い、口を大きく開いて腹に力を入れる。


!」


 もう彼女の名前を呼ぶことくらいしかできなかった。


「はぁ、はぁ……そんな大きな声で人の名前を呼ばないでくれる?」

「戻ってきてくれたのか」

「普通こういうのって追いついて止めてくれるもんじゃないの?」

「悪いなこれが俺の普通だし、お前が速すぎるんだよ」


 俺がそう言うと冬島は「ぷはっ」と吹き出す。

 そしてスッと目の前に水を差しだしてくる。


 のどから手が出るほど今欲しかったものがそこにある。


「ほら、早く水分取りな」

「いいのか? 悪いな」

「熱中症になられてもこっちが困るし」

「では遠慮なくいただくとする」


 ごくごくとキャップを外し、水を飲む。

 生き返る、カラカラに乾いたのどが潤っていく。


「てかうちが速いって結構、遅くしたはずなんだけど」

「手を抜いてたのに追いつけなか――――ん? ちょっと待て」

「なに?」

「手を抜いてたってことは、本当は止めてほしかったってことだよな?」


 そうでないと今の言葉、冬島の行動に意味がない。

 それを聞いて冬島はみるみる顔が赤くなっていく。


(暑くて顔が赤いのか、今のが恥ずかしくてなのかどっちだ!)


「え、ちょ……まって……はず」


 冬島はそういいながら両手で自分の顔を隠す。

 しかし耳まで真っ赤になっているため隠しても遅い。


「こ、こっちみるなぁぁ」

「とりあえず……水飲むか?」

「……のむ」

「はいよ」


 キャップは外して冬島に渡す。

 一口、二口飲んで返される。


 俺は彼女が落ち着いてから話をし始める。


「冬島、今はまだ迷ってるかもしれない教師を目指すのも目指さないのもお前の選択だ」

「うん」

「でもお父さんに拒絶されようと周りが何と言おうと、俺は冬島が教師を目指すなら応援する――――

「あ、ありがとう……てかそれ愛の告白?」


 冬島はニヤっとしながらも顔はまだほんのり赤かった。


 からかって来ていたのだろうが、可愛らしさしかなくウザいなんて感情は全くわかなかった。


「とりあえず今、俺の目の前でだけは言ってほしいんだ」

「うん、わかった――――私教師を目指すよ

「そうそう――――って今なんと?」

「教師を目指すよ幸也」


 聞き間違いじゃなかった、幸也とはっきりと名前で呼ばれている。

 しかも呼び捨て下の名前で。


「ふ、冬島? 今幸也って名前で呼んだのか?」

「さっき幸也だってうちの下の名前呼んだでしょ?」

「いや、あれは……」

「それにもう親しい仲だと思うんだけどうちだけ?」


 そう言われては言い返せなくなるのを知っているからこそずるい。


 それに恥ずかしそうに頬をほんのり赤らめて、くしゃっと笑う姿には正直可愛いとしか出てこない。


(清楚の皮を被ったギャルなのに……くそぅ、可愛いよぉう)


「これからもよろしく、幸也」

「あぁよろしく冬島」


 悶えそうになるところを必死に抑えながら言うと、冬島は眉を下げ悲しそうな表情をする。


「名前呼んでくれないんだ」

「ッ…………みな」


 恥ずかしすぎて死にそうだった。

 冬島には「もう一回」と面白がられたが、断固として拒否した。

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オタクに優しいギャルなんて学校に存在しません!~だけど学校のギャルに勉強を教える先生に任命されました 楠木のある @kusunki_oo

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