第一章 恐怖の夏の前触れ
20〇〇年7月中旬。
土砂降り続きの梅雨が明け、夏が訪れた。
眩しく輝く太陽、青い空に白い雲。
その日は、とても穏やかで、爽やかな夏だった。
「はぁー。久しぶりに洗濯物がよく乾くわー。」
ベランダで洗濯物を干しながら、首筋を流れる汗を片手で拭いながら、ミキは、空を見上げ、そう言った。
クーラーのきいた部屋で、涼みながら、テレビを見ていたタカシに、洗濯物を干し終え、ベランダから中に入ってきたミキは、両手を腰に当てて言う。
「夏休みだからってね、テレビばかり観てんじゃないわよ。」
呆れた口調で言ったミキに、タカシは、真剣な顔で、こう言った。
「母さん、今日の気温37℃だって。ヤバくない?」
テレビの画面の天気予報を指差し、タカシが言うと、ミキもテレビに視線を向ける。
「ほんとだ……。やっと、ジメジメした季節から解放されたと思ったら、今度は、猛暑なのね〜。」
「熱中症で倒れる人、続出だってさ。」
タカシの言葉に、ミキは、腕を組む。
「そんな事を言って、クーラーのきいてる部屋にばかり居るんじゃありません!」
コツンと軽く頭を叩かれ、タカシは、頭を撫でた。
「お昼ご飯を食べたら、自分の部屋で勉強するのよ。夏休みの宿題あるんでしょ!」
「はいはーい。」
タカシは、適当に返事をして、手を洗う為に、洗面所へ向かった。
洗面所の前に立ち、水道の蛇口を捻り、流れ出てきた水に手を入れたタカシは、思わず、手を引く。
「えっ……?水が温かい……。」
夏の暑さに一瞬、温かいだけかと、しばらく出しっぱなしにして、触れると、やはり、温かい。
いや、温かいというより、少し熱い感じがする。
「母さん!水が温かいよ!」
洗面所からタカシが叫ぶと、ミキは、パタパタとスリッパの音を立て、洗面所へ来た。
「間違って、お湯の方を出しているんでしょ!」
そう言って、一度、水を止め、もう一度、出すと、ミキは、水に触れる為、手を差し出した。
「熱い……っ!!」
声を上げ、すぐに手を引っ込めたミキに、タカシは、クスッと笑う。
「大袈裟だな、母さん。温かかったけど、熱くはなかったよ。」
そう言って、自分も水に触れて、サッと手を引いた。
「……ほんとだ、熱い。まるで、熱湯のようだ。」
ミキとタカシは、しばらく顔を見合わせていた。
「兎に角、水道局に連絡してみるから。水道、止めててね。」
そう言うと、ミキは、洗面所を離れ、電話のあるリビングへ向かった。
タカシは、水道の水を止める。
「……何だか、嫌な感じがする。」
動物の勘ともいうのだろうか、タカシの脳裏に、フッと、そんな思いがよぎった。
ー第一章【完】ー
夏が殺しにやってくる こた神さま @kotakami
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