第2話

マルクがレイノルズに反論すると、上司のルドルフは顔を青くして立ち上がり、マルクを止めようとした。一方、当のレイノルズはマルクをじっと見つめ、品定めするような視線を送るばかりだ。性格は繊細な分、起伏も激しい人物と聞いているが、取り乱す様子はない。


「マルク!!、、さすがに失礼だろう?

サー•レイノルズ、失礼いたしました。」


「、、へえ。

君がとても真剣に音楽に向き合ってきたことはよく分かったよ、マルク。

、、それに、冷静なんだな。私が君を試したのを見抜いたな。ま、そのくらいじゃなきゃ、こんな大御所ピアニストたちの相手なんかできないさ。彼らの何人かとは共演したことがあるが、私もとても緊張したよ。


、、ルドルフさん、貴方の肝を冷やすようなことをしてこちらこそ礼を失しました。

でも、私は自分にできる最高の演奏がいつだってしたい。だからそのパートナーを選ぶのは一大事でして。」


レイノルズは、マルクをファーストネームで呼び、ルドルフにも一言話しながら、今度は目も優しくなり微笑む。マルクの対応は正解だったようだ。


「、、ありがとうございます。

貴方を担当させて頂く可能性があると聞いてから、1ヶ月近く、、貴方のさまざまな演奏を聴かせて頂きました。

、、ピアノとのデュオもいくつか聴きましたし、先日ハノーヴァーで行われたリサイタルも拝聴しまして。ピアノのことも、ピアノに出来うることも深く考えた上で音楽を作っているのが伝わる演奏でした。そんな貴方がピアノを本当にソロしかできない楽器なんて言うはずはない。

第一、一流のソリストにそんな無知でセンスに欠ける人はいない。

、、、レイノルズさんなら尚更のはず。


、、僕の音楽への見解や、感情を制御できるかを見たいのだなと思いました。」


「君のピアノもいつか聞いてみたいな。

、、若いのにとてもしっかりしている。


、、社長、ルドルフさん、貴方がたの推薦は正しかったようです。、、とりあえず1ヶ月は、彼にマネジメントを頼みます。、、その後は相性や諸々を見て続けて頂くか考えます。


、、マルク、名刺をもらうよ。それと、是非座って。」


レイノルズはマルクに手を差し出す。マルクが名刺を渡すと、受け取りながら席をすすめてくれたが、マルクはまだ問題を感じていてそのままレイノルズに視線を送る。


「、、レイノルズさん。僕と貴方は4歳差です。貴方は確かに年上ですが、、貴方も十分お若いですよね。、、素晴らしい才能をお持ちなんですから、お若いことを気にする必要はありません。

、、そのほうがレイノルズさんのお考えを、僕も知ることができるかも。お考えを知るのは良い舞台を作るには大事です。」


「マルク!、、すみません、彼は少々口数が多くて。」

ルドルフはまた困り顔でマルクを止める。


「、、、、、なら、気が向いたらファーストネームで呼んでくれても構わないよ。小さいときからこんな生活で年が近い友人も出来づらかった。」


レイノルズは一瞬マルクの発言が気に障り、瞳が鋭くなったが調子を戻して気さくに微笑む。

ルドルフはそれを見て安堵からため息をついている。


「、、わかりました。ではたまにお呼びさせて頂くかもしれません。、、リチャードさん。」

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ラ•カンパネラ Canarie @Canarie

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