紫苑とともに。

月白 雪加_TsukisiroSekka

水平線を掴む。

うん、綺麗だ。


わたしの目の前には花色の海が広がっている。


ぱっとしない空はまさに私の心そのものだ。


「わたしもいっしょにいきたかったな。」


君をみつめてそう呟いた。


こぼれてしまいそうだから視線をそらす。




果てしなく続く水平線。


手を伸ばしたら届いてしまいそう。ふふ。


私は惹かれるように進んでいく。


波打ち際でふと立ち止まってしまった。




いきたい。




あともう少しなんだ。


それでも私は水平線を掴めない。


彼はそれを掴めたのに。


私はまだ歩き続けている。


信じてるから。



海の香りが鼻をさす。目にしみる。


本当はだめだと知らしめる。


でも。


いきたい、いきたい。


こんなにもいきたいのにいきたくない。


感情が邪魔で上手く進めない。


もう一度顔を上げる。


追いついてしまうのが怖いのはなぜ?


消えてしまいそうなのはなぜ?


次の1歩が踏み出せない。


やっぱりいきたくないのかもしれない。



冷たい水は私を食べていく。


いやだ、まだいきたい。


今更?


ほんとにどうかしていると思う。


冷笑するしかない。


でも。


少しずつ太陽が顔を出している。


私の居場所はここだと影が教える。


波が引いていく。足の裏に砂が刺さる。


絡まったネックレスがようやく解けた。



信じてみたかったんだ。


だからまだそれを求めている。


いきたい。


もう少し、信じてみたい。


空ももう十分美しくなっていた。


「私はやっぱりやめとくよ。」


やっと君に言えた。


暗くて先の見えないところ。


黒ばっかりで水気の多いところ。


汚れた煙が目にしみる。


昨日はそんなところだったね。


でももう自由だよ。


広くて寂しくないところ。


青くて深い綺麗なところ。


繋がっているところ。


君によく似合うところ。


私は君を手放した。


広い海をゆらゆらと漂う君のかけらたち。


幸せそうに輝いている。


私には水平線は掴めない。


それがわかった日、もう追いつけないと知った。


それはもう追いつかないと決めた日。


強くいきたいと思った日。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紫苑とともに。 月白 雪加_TsukisiroSekka @tsukisiro0217

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ