ただ、暑い世界の中で
白川津 中々
◾️
朝だ。
朝がやってきたのだ。
遠慮も慈悲もない太陽光。ビルで固められた街の気温は6時の時点で40度。土と植物による吸熱機能を失った都市構成は本来人の住みやすさを追求したものだっだがこの酷暑はどう考えても快適ではないどころか死に繋がる水準。設計したデザイナーは地理と歴史と気象学をぶべきだった。もっとも、仮に履修したとてクライアントの意向と会社の方針によりやはり同じようなビル群施設群居住群を形成していただろう。結果として生じるツケを払うのは後に生きる人間。不条理な事だ。
「宇宙への放熱計画は年内にも実行できる見込みであり、現在、排熱システム"細波一号"の調整が続いています」
自動で流れる最新ニュースを聞き流し注冷剤を入れる。寒い。窓を開けると熱風が身体にあたり心地よかった。そのまま外を見るともう蜃気楼が見える。この短期間に気温は60度まで突破。遠くで黒煙が上がっている。いつもの事だ。
「飲もう」
冷注剤で冷えた身体に熱燗一杯。芯まで凍えた身体が火照る。これが日本の夏の風物詩。酔って寝て、気が付けばまた朝。なんとも非生産的だがこの暑さで人間的な活動など、動物的活動などできるはずがない。
「本日の最高気温は80度です。冷注剤の使用をお忘れなく。それでは、また明日」
朝のニュースを聞き終わり、できあがった燗で身体に火を入れていく。胡乱な眼で遠方を眺めると、立ち上る黒煙が、高く、ゆっくり、青空に溶けていく……
ただ、暑い世界の中で 白川津 中々 @taka1212384
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