某神社にて霧の日
尾八原ジュージ
某日
名前を出して現地の方に迷惑がかかるといけないので伏せるんですが、最近、●●県の■■神社に行ってまいりました。
■■神社近辺といえば、近くに白い女が出るという某トンネルだとか、二階に絶対入ってはいけない部屋がある某観光ホテル跡地だとか――これだけでピンとくる方もいるんじゃないですかね? ともかく、オカルト的スポットが集合している地域として、一部ではよく知られているわけです。
で、当然■■神社もそういう文脈で語られることが結構多い。いや、もちろんちゃんとした神社です。市の観光案内にも載ってるし、祭神も日本書紀とかに載ってる神様だし、きちんとした由緒あるところです。確か、建物の一部が国の重要文化財――だったかな? とにかくただの心霊スポットじゃなくて、ちゃんとした神社だってことは断っておきます。
それで、この辺りは非常に霧が出やすい地域でもあるんですが、これに関してある噂がありまして。というのも、霧の日に一人でこの■■神社の参道を歩くと、別の世界に紛れ込んでしまう――という噂が、一部のマニアの間でまことしやかにささやかれているんです。
まぁ本当に行方不明者が出てたりするのかっていうとそんなこともなくて、ていうか普通に観光スポットなんでそもそも「一人で歩く」ってのがそこそこハードル高いんですが、まーでも霧が出るとすごい雰囲気があるもんで、そういう噂ができたんじゃないかな……なんて思いつつ、ワンチャン狙ってみたくもあり、今回無理くり予定に組み込んだわけです(別件もあったんですよ。異界神社のために●●県まで行ったわけでは決してない)。
そしたらたまたま平日の午前中、天気はぼんやりとした曇り空で雨の予報も出てる……みたいな好条件が重なって、■■神社の境内、めちゃくちゃ人が少なかったんですよね。おかげで私、一人で参道を歩くことに成功してしまいました。いやー、これで霧が出たら完璧だな! と思ってたらこれ、ほんとに出たのでびびりました……手水場で手と口をすすいで振り返ったら、あっという間に辺りが真っ白なんですよ。夏でもあんな風になるもんですね。びっくりした。
とにかくこんな好機は滅多にないんで、気を引き締めて参道を歩き始めました。スマホで動画を撮りながら、なんか写ったりしないかな~なんて独り言いってたんですが、正直けっこう怖かったです。とにかく雰囲気がすごくて。ほんとにここは異界じゃないのかぁなんて……カメラ動かしてみて、右見ても左見ても白いんですよね。いや、すごい時に来ちゃったな~と思って正面を向いたら――いつの間にか人がいるんです。
巫女さんの服を着た人が、自分の四、五歩くらい先を歩いてる。こりゃ雰囲気あるなと思って、そーっと後ろを歩きながらスマホのカメラ構えたんですが、そのとき「あれっ」と思いました。
その巫女さん、参道の真ん中を歩いてるんですよね。よく言うじゃないですか、参道は端っこを歩けって。真ん中は神様が通るところだからって。
本職かバイトか知らないけど、巫女さんがあんな風に堂々と参道の真ん中歩くか? と思ったら、急にゾクゾクッとして、思わず立ち止まってしまいました。これ以上あのひとについてったら、ロクなことにならないんじゃないかみたいな気持ちがしてきて――今思うともったいないかもなんですけど、結局その巫女さんの背中がスモーク炊いたみたいな霧の中に消えていくのを、ただ見てたんです。ムービーも止めて。何か写ってたら怖いというより、撮ってること自体が不敬で、バチが当たるんじゃないかと思ったんですよね。
それからほんの一分か二分で霧は晴れたんですけど、あの巫女さんの姿はもう、目につくところにはなかったです。晴れてみるとびびってたのがバカみたいで笑えたんですけど、まぁせっかく来たんだしってちゃんとお参りして、それから御守りでも買おうと思って社務所に向かいました。
社務所のカウンターの向こうに、巫女さんの制服着た女の子が二人くらい立ってたんですが、そのときまたあれっと思ったんですよね。巫女服が違うんですよ、さっき参道にいた巫女さんと。
いやでも、たまたま違うやつを着ることだってあるかもしれないですよね。だからぎょっとはしたけど、まぁ普通にあの人も巫女さんだったんだろうな~と思って、そのへんのベンチ座ってさっきのムービー再生して。
そしたら撮れてないんですよ。霧で真っ白な画面と、あとは私の足音が延々流れるだけ。いや、確かに巫女さん撮ってたはずなんですけど……。
つってね。まー、いいです。追及はしなくて。もう一回行ったらなんかわかるかもだけど、怒られるの怖いんで。何にって? 神様とかですかね。
まぁとにかく■■神社はめっちゃ雰囲気あっておすすめってことと、霧の日は服とかすごい濡れるんで気をつけろって話です。おわり。
某神社にて霧の日 尾八原ジュージ @zi-yon
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