5
「……こんにちは」
と宵はもう一度、逢瀬くんに言った。
「うん。こんにちは」
逢瀬くんは言う。
それから二人は無言になった。
逢瀬くんは陸上部の部活帰りのときと同じ、中学校の制服を着たままだった。私もそうすればよかった、とその真っ黒な制服を見て、宵は思った。
「神社の中、案内してもらってもいい?」
少しして、山野神社の境内の中を見ながら逢瀬くんがそう言った。
「もちろん」
宵は言う。
それから二人は山野神社の境内の中を散歩するために、神社から参道の上に靴をはいて移動をした。
その移動の間、ふと視線を感じて家のほうを見ると、お姉ちゃんがにっこりと笑って、遠目から宵と逢瀬くんのことをドアの影に隠れるようにして見つめていた。
お姉ちゃんはすべてを知っていたのだと宵は思った。
今日は、このあと、久しぶりの姉妹の喧嘩になるかもしれない。
そんなことを考えながら、宵は逢瀬くんと一緒に夜の時間の山野神社の境内をぐるっと一周、歩いて回った。
「すごいね」
逢瀬くんはそう言った。
「そうかな?」
宵は言う。
幼いころからずっと見慣れている景色を見ても、宵は逢瀬くんの言う通りに、山野神社の存在について、すごい、と言った感想を持つことはなかった。
二人はそれから境内に移動するための長い石段を下って、神社の入り口にある大きな赤い鳥居のところにまで移動をした。
それはその赤い鳥居を見たいと、逢瀬くんが言ったからだった。
「でも、鳥居なら帰るときにまた見られるよ?」
と、宵が言うと、「山野さんと一緒に見たいんだ」と逢瀬くんは言った。
その言葉を聞いて、宵はなんだかすごく嬉しくなった。
見慣れたはずの赤い鳥居も、今日はなんだかすごく特別なものに見えた。それが、すごく不思議だった。
空のとても高いところに星が流れるのが見えた。
その満天の星の輝く夜空に流れるひとつの流れ星を見て、宵は「あの、逢瀬くん。すごく大切な話があります」と言った。
「なに?」と逢瀬くんは言う。
「実は、……、私は……」そう言って、それから宵は生まれて初めての恋を告白を逢瀬くんにした。
どうして突然、そんな大胆なことをしてしまったのか、(そんな奇跡みたいなことが自然とできたのか)その理由は、自分でもよくわからなかった。
天津風 あまつかぜ 終わり
天津風 あまつかぜ 雨世界 @amesekai
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