第3話 一心同体とか嫌過ぎるんだが
「———な、何だよ、これ……」
『ケケケッ、ビビったかァ? コレは、オレの目のデフォルトよォ』
そう、突如世界全体が真っ赤に染まったかのような視界に変化したことに驚く俺へと魔眼が宣う。
『視界が赤くなってんのは、魔力だ。テメェは魔力を感じれても見れねェらしいなァ?』
「当たり前だろ。魔力は見るもんじゃなくて感じるもんだ」
この世界の魔力は、基本的に可視化されていない。
見える場合としては……魔法というこの世界の現象に起こすことや、完全に制御された魔法にあらずして魔法に勝る魔力へと昇華された時くらいのことだ。
よって、碌に異能も魔法も使えない俺には見えるはずもない。
『そんな考え方じゃオレの契約者は務まんねェぞォ? これからは魔力を目で見て理解すんだ。そうすれば———テメェに魔法は効かねェ』
「何そのチート能力。今までの人生ヘルモードだったのに、一気にヌルゲーに変わって来たんだけど」
『ケケケッ、ヌルゲーかはその内分かる』
何て不穏なことを呟く魔眼はさておき。
俺は真っ赤に染まる視界の中、盗賊達の姿を見て……小さく息を吐く。
「よし……それじゃあやってやりますか」
『ケケケッ、最初はアシストしてやる』
同時———俺は迫りくる盗賊達に正面から突っ込んだ。
不思議と恐怖は感じず、負ける気もしない。
アドレナリンでも出ているのだろう。
「ガハハハハハハ、コイツ、俺達に向かって真正面から来やがったぞ!!」
ゆっくりと向かう俺を見て馬鹿にするように笑う盗賊。
魔力を見る限り全身に魔力が行き渡っているので、一応戦闘態勢には入っているらしい。
しかし———鳩尾辺りに不思議と魔力のない部分があった。
『よく気付いたなァ? それが———奴の弱点だ。ソコを突けば……まァお楽しみだ』
弱点と言うなら話は早い。
俺は、低い姿勢から一気に速度を上げる。
まるで狩りをする獣のように、一気に加速する。
そして相手が一瞬見失った隙に、鳩尾目掛けて拳を振るった。
軽く殴っても机が粉砕するのだ。
大人で戦闘経験が上の盗賊とは言え———耐えられるものではない。
「馬鹿な奴だ———カハッッ!?」
「おい何して———ゴハッ!?!?」
「来るな来るな来るなああああああああああ!?!?」
一寸の狂いもなく鳩尾に拳を撃ち込まれた盗賊は、口から一気に空気を吐き出し、弾丸の如き速度で後方に吹き飛ぶ。
ついでに数人を巻き込んでくれたのは嬉しい誤算だ。
「おおっ……何となく分かってたけど、とんでもない威力だな」
『ケケケッ、テメェとオレの相性は最高だからなァ。テメェの肉体がオレの元の肉体強度に近付くのも当たり前っつーわけだ。———右に半歩』
「は? ———うおっ!?」
突然声色を変えて短く言葉を紡いだ魔眼。
そんな奴に訝しげに思うも、素直に従い———真横に剣が振り下ろされたのを見て思わず声を漏らした。
しかし相手は俺以上に驚いており、地面に突き刺さった剣を眺めて声を荒げる。
「ば、馬鹿な!? この俺様の一撃が避けられた———ゴペッ!?」
「悪い、丁度良いところに頭があったもんで」
俺に顔面を蹴られた男は、先程の奴と同じ様に吹き飛ばされる。
流石に今回は誰も巻き込まれなかった。
「ちぇっ……何人か当たれば楽だったのに」
「て、テメェまさか力を隠してやがったのか!?」
誰も巻き込まれなかったことに舌打ちをする俺に、この盗賊団のボスと思われる大柄な大剣を持った赤髪の男が声を張り上げる。
その強面な顔には驚愕と恐怖が貼り付けられていて、俺をバケモノを見る目で見ていた。
あー、まぁそうなるよね、普通。
こんな一気に強くなるなんて思わないもんね。
勿論少し前まではクソ雑魚ナメクジだったが……わざわざ言ってやる必要もない。
それに、どうせなら思いっ切り虚勢張ってカッコつけてやろう。
早速決めた俺は、ぐるっと辺りを見回すと同時に盗賊1人1人の瞳をわざと見つめてやる。
そして、あたかも隠していたと言わんばかりにやれやれと肩を竦め、薄く笑みを浮かべる顔に右手を添えた。
「———ああ、良く分かったな? なに、テメェ等のアジトを暴いて少し遊んでやろうと思ったまでだ」
…………かんっぜんに決まった……っ!!
やべっ、今の俺、めっちゃ強者感あるくね?
間違いなく隠れた最強キャラだよな!?
『……コイツ、さっきは恥ずかしいとか何とか抜かしてた気がするんだが。人格が2つあんのか?』
「…………おい、折角見ないようにしてたのに言うなよ」
俺は呆れたように言う魔眼の言葉に、抑えていた羞恥が再臨した。
ぐおぉぉぉぉぉぉ恥ずかしいぃぃぃぃぃ……!!
何が『ああ、良く分かったな?』だよ!
1ミリも合ってないんじゃボケッ!
「———おい、テメェ等」
俺は俯いたまま拳を構えると。
「な、何だ……?」
「ボス、何かコイツ雰囲気が……」
「あ、あぁ、だが……迂闊に近づけば殺られんのはコッチだ」
何か上手い具合に俺を警戒してくれているらしい盗賊達に向かって叫んだ。
「———テメェ等全員、生きて帰れると思うなよ……!!」
勿論、涙目で。
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