麻酔に酔いたい。それだけ

八重櫻影人

幸せ?生きる?死ぬ?なんだこれ? ???????

「俺は麻酔を超える男だ!」

まっすーこと増田陸は、堂々と格言のように言う。

彼の前代未聞の馬鹿で天才な挑戦はここから始まる。


死人の亡霊は全く出なそうな、清潔な手術室に彼はいた。

「うわー〜さチョイshcなsphcwhんc」

ここで彼は、世界初の挑戦をする。



彼はある手術を控えていた。しかし手術といっても、そこまで大したことない

普遍的なものだ。

「さぁ麻酔打ちますよ。大丈夫だからね」

看護師さんの心震える優しい声がする。

しかしそんなことはどうでもいいまっすーは目を開け、

ニチャアと不敵というか、誰も近づかない笑顔を見せる。

「ふっふっふ。心配無用!俺は麻酔に勝つ!」

なんとも恥知らずなやつなのか。それとも単純なバカなのか。


「おい!早く寝ろ!寝たら終わりだから!」

「そうよ、陸の命はこれで救われるから。大人しくして!」


父と母の怒号とも包み込むような暖かさとも取れる言葉に聞く耳を取らなかった。


そして、ついに時間が来た。

麻酔が体内に打ち込まれる。


ああああああああ

叫びのない叫びが体を蝕む。

世界は混沌の沼にハマるように、落ちていく。


「うわー〜ー  苦ーーsbんsjcbd洲CDcbどc」

言葉でもない何かが口から溢れる。

知らぬ間に世界が滅んでいくような気持ちが浮かび上がった。


「まだ寝ないぞーーー俺は!」

なぜ彼はここまで拒むのか。


まっすーは世界の狭間で深く考察した。

生を神から預かってから、ここまでたくさんの試練と苦悩が交差してきた。

生きるとは、死ぬとは、神とは。

自分の思いがなぜか、つらつらと出てくる出てくる。

両親の顔、先生、知らない人。


「助けて。助けて。どうして。殺して。」

もう命はないのか。世界はどうして生まれたのか。

走馬灯か、ただの夢か。それとも現実か。神か。











増田陸 享年48。




母は泣き、父は目を閉じた。

これで地獄から解放されたように、抱き合った。

まっすーはここで命の糸がぷちんと切れた。


死んだ。それだけ。

普遍的な安楽死手術はこれで終わった。

あとは無機質な書類に、ペンを走らせるだけ。


麻酔と騙し、強制的な安楽死は世界中にニュースになるだろう。

極秘で行われたこの手術は、まさに人間失格であり、親失格だ。

それでも、殺した。

なぜ?

知らない。わかりたくない。気持ち悪い。

こんな感情がすらすらと。


酔って、幸せになりたかった。

全てを忘れたかった。

それだけ。












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