宿屋

 長旅というのも、なかなか疲れるものだ。

 

 殺し屋をしていた時も各地へ飛び回っていたけど、その時は今みたいなガタゴト揺れる馬車ではなく、時速900kmの飛行機だった。




『ここら辺は人通りが多くてな、旅人のための宿も多いだろう。今夜は野宿じゃねぇから安心しな』


「なんて?」


「人が多いから宿も多いって」


「マジっ!やった!」




 間も無くして、私たちを乗せた馬車は宿街に着いた。




『良くしてもらってる所があってな、今日はそこに泊まる』




 馬車を止め、私たちは荷台から飛び降りた。


 すると、目の前には私たちより頭ひとつ分くらい小さい少女がいた。




『ようこそ、木漏れ日の宿へ。3人?』


『ああそうだ。俺とこいつらの部屋は別にしてくれ』




 いつ戻り深雪に状況を説明してもらうと、すぐさま部屋に入ってベッドにダイブ!からの枕投げ!!




「はしゃぎすぎ」


「そんなに怒らなくてもぅ〜」




 ベッドが予想以上に固く、体の各所にダメージを受けた私は、腰をさすりながら深雪の説教を受けた。


 入口に人の気配を感じる。


 どうやら、こちらをちらちらと覗いている様子。




「えと、だーれ?」


『ひゃっ!あのっ、わたし……、です。宿屋の』


「どしたの?」




 ズズっとお茶を啜りながら聞いてみる。


 すると余計に固まってしまった。


 そんなつもりはなかったんだけどなぁ。




「あちゃぁ、怖がらせちゃったかな、どしよ」


「任せて」




 流石、普段口数が少ない深雪だけど、こういう時に頼りになる。


 深雪は、その口数に反してコミュ力が高い。


 こわばった表情が徐々に解けていき、笑顔で満たされていく少女。


 少女はもうすっかり深雪になついたようで、2人はまるで姉妹のように、笑顔で会話をしていた。

 



「この子、私たちの仲間に加わりたいらしい」


「え、どして?」




 突然深雪の口から飛び出してきた言葉に、私は動揺を隠せなかった。


 だって、見た目からしてまだ12から14才くらいでしょ?




『私実はっ、見た人の生い立ちが何となくわかるんです。それでっ、』


 


 深雪は、言葉に詰まった少女の頭を優しく撫でながら言った。




「私たちの人柄に惹かれたから、この宿屋から連れ出して欲しいって」




 複雑な事情がある様子。

 

 というか、もうすっかりお姉ちゃん気分だな、この人。


 どこか満足そうで、緩んだ表情を見せる深雪を見ながら、私はどうしたものかと頭を抱えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元殺し屋、異世界転移したので封印してた力と知識を開放して無双する あもる @SiMOduki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画