【三題噺】夜空とアスファルトとホットサンドと
九戸政景
本文
「蒸し暑いな……」
夏の夜、俺は外を歩いていた。星が煌めく夜空の下を歩くのは好きだ。なんだか気持ちがいいから。そう思いながらアスファルトの上をのんびりと歩く。その時だった。
「ホットサンド、いりますか?」
「え?」
声が聞こえて後ろを向く。そこには一人の男がいた。その男は覆面で顔を隠し、売り子のような形で鉄板を首から下げた不思議な奴だった。
「ホットサンドって……食べ物の?」
「ホットサンド、いりますか?」
「んー……まあ、少し小腹も空いたしな。はい、いります」
どんなものが出るか俺はワクワクした。けれど、その期待はすぐに裏切られた。その男が突然襲いかかってきたのだ。
「え……」
驚いている間に俺は組み伏せられる。そして何をされるのかと思っていると、男は俺の顔の横のアスファルトに鉄板を押し付けた。鉄板は熱されていたのかアスファルトからは焦げた匂いが漂い始める。
「な、何をする気なんだよ……」
恐怖と不安に押し潰されそうになっていた時、男は鉄板を離し、俺の頭を熱されたアスファルトに近づけた。その瞬間、俺は嫌な予感がした。
「や、止めろ……止めてくれ……!」
その願いもむなしく俺の頭はアスファルトに押し付けられた。
「あ、あづい! あづいぃ……!!」
熱の痛みが頭を駆け巡り、俺は叫ぶしかなかった。少しずつ自分の頭が焼け焦げていく恐怖で涙が出る中、男は鉄板を近づけてきた。そしてわかってしまった。ホットサンドの正体が。
「う、ウソだろ……? おい、ウソだよな……なあ!?」
ウソではなかった。すぐに鉄板が上側を向いてた方に押し付けられ、そのまま俺は二つと高熱にサンドされる。
「ああぁっ……!」
熱いという言葉すらいえなかった。二つの高温に挟まれながら俺の頭は強い力で押し潰されていき、焼けていくジュウジュウという音とサンドされていくミシミシという音が死に近づけていく。
そうしてホットサンドにされていく中、俺の目は夜空を見ていた。俺もあの星の一つになるのか。それならいいのかな。そんな思いの中で夜空に手を伸ばしながら俺の意識は消えていった。
「ねえ、知ってる?」
「え、何を?」
「昨日の夜、頭だけが焼け焦げた死体が見つかった話」
「あ、知ってるー。怖いよねー」
夜道、星空の下を二人の女子高生が歩きながら話をしていた。
「最近多いよね、その事件」
「噂では夜にだけ出てくる鉄板持った怪人の仕業らしいよ?」
「うわあ、こわーい。アスファルトに押し付けられた感じだったし、名付けてホットサンド怪人とか?」
「あははっ、それっぽ──」
「ホットサンド、いりますか?」
「「え?」」
その後ろには血がこびりついた鉄板を首から下げた男が立っていた。
【三題噺】夜空とアスファルトとホットサンドと 九戸政景 @2012712
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