第20話 分析



相手からのサーブを待つ叩かれた瞬間に定位置に走りメンバーと顔を見合わせる、聖様以外で一番今日の調子がよくこの場面に適している人…

ブロックは私にピッタリとついてきている

聖様から目を離さずにバックレフト、剛さんにトスを送る。聖様は入る動作だけして外に抜けていった。ブロックは一人つられて二枚ブロック


「ッシ!」


落ちていくブロックの上から落とすように放たれたスパイクは滑り込んだ手が届かず、床に落ちた。これで一点、振り出しとは言わないけれどなんとか一歩目を踏み出せた。しかしまだ蓮さんからの視線は冷たい。おそらく十点差をつけるまでその視線は続くだろう。聖様以外の全人類に厳しいのが彼だ、むしろその方が彼らしい。さてこちら側のサーブは蓮さん、先ほど切れた流れを取り戻すために最初からフルスロットルでサーブをすると思うが…

彼は笛が鳴った瞬間に飛び上がった、その勢いでボールを叩き相手レシーバーは勢いを殺しきれずに大きくボールをはじいてしまいチャンスボールでこちらに帰ってくる。だがそれを見逃さない黄金は少しレフトよりのそのボールを丁寧にたたきつけた


「ふぅ、蓮もう一本頼むぞ」


「いわれずとも」


ほんの少しだけ会話を済ませた後、蓮さんはエンドラインまで歩いて行った。二人が信用しあっているのが目に取れて少しうらやましい。聖様からの心配の視線は始まったころから絶えず送られてきているけど知らない人から見たら威圧しているように見えるくらいその視線は冷酷だ。何も感情を表に出さずジッと見つめてきている。今は少し落ち着いているからあの視線を受けても心配と受け取れるけれど切迫しているときにふと目が合うと恐怖で体が震えてくる。あの顔は本気で相対している証拠、本気だからこそ恐ろしい。いつもだったらそのままこちらにアドバイスという名の説教が始まるはずだが、ミスした時から視線が強まるだけだ。おそらく蓮さんが一言言っておいてくれたのだろう。視線だけあるのもそれはそれで体が震える


「…すぅーふぅー」


一呼吸。落ち着くのはそれだけでいい。セッターの役割を思い出せ


「…持ち直そう。きっとできる」


ここから蓮さんはサーブを強気に決め続け三本目、ネットにかかりサーブが途切れて5対1。相手のサーブは緩いボールが飛んできてネコさんがAパスで返してくれた。相手コートを見ようとしても私より大きいブロッカーがコート内を見えないように真横にピッタリとついてきた

少し眉をひそめながらブロッカー一人が確定している私の周りを避けて一番遠い剛さんに平行パスを送る。速いパスだから二枚ブロックで打ち抜くことになるはずだ


「行けるかもッ!」


そんな予想とは裏腹に剛さんについたブロックは正面の二枚+滑り込んできたブロッカーが片手のみ正面になるように斜めに飛んだ。突然現れた三枚目に気づきながらも突然コースを変えることはできずブロックに当たって跳ね上がる。大きく上がったボールはリベロが丁寧に拾いすべてのスパイカーが助走距離を確保した


「必ず止めるぞ!」


「ちょっと待って!もしかして、このローテ本業のブロッカーいない!?」


「それをわかって編成したんじゃないのか!?」


「フフッ」


ネット際の緊張のかけらもない会話に思わず笑みがこぼれる。いったん落ち着いて情報を整理しましょう。さっき私の前にいたプレイヤーは金子 勝久。新人戦での出場経験は一試合のみのはずだ。あのプレイヤーは足の速さに定評があり高校二年までは背が低かったためセカンドリベロとして試合の後半に出場していた。成長期が来たのか背が急激に伸び、今ではチーム三番手185㎝だ。そのスピードと背の高さを活かすためにブロッカーとして登場、といった形でしょうか。あの方ならば端から端まで一枚確定という認識で行こう


相手の攻撃はセンター。三人はしっかりと壁を作りその隙間にいたネコさんがボールをあげる。少し高めだがいいパスだ。三人がしっかり助走をしたことを確認し、ジャンプしてボールに高さを合わせる


「はいはいはい!俺!」


と叫びながら走りこんでくる剛さんを司会に収めてから、


私は、蓮さんにボールを上げた


「うお、」


蓮さんは助走しておきながらそちらに飛んでくるとは思っていなかったのか、驚きの声を上げながらスパイクを打った。(これからはこういう突然のトスやフェイクに対応できる練習を追加しましょう)バックということもありブロッカーは一枚、その代わり、前にレシーバーが構えていた


蓮さんはそれをしっかりと見ていたのかサイドラインを狙った鋭いボールを放った


「うおぉぉ!行けた!!」


「…ちっ」


しかしこのボールは、大声を出しながら突っ込んだ根津さんに拾われた。しかし、そのボールは大きく上がりこちらに帰ってくる勢いだった。それを見逃さず、黄金さんがまた叩き落しにかかる。ネットの近くに落ちていくボールに突っ込んだのがリベロの大山 昇。かろうじてあげたボールは、ネットをぎりぎり超える高さのもの。私は下で構えながらそのボールが来るのを待っていた


そこに走りこんできたのが根津さん。彼は後ろから走ってくる勢いのまま上に飛び上がり、リベロがあげたボールを私の後ろに叩きこんだ


それに気づいた時はもう遅く、後ろのボールに手を伸ばすが少し跳ねるだけでつづけることができなかった


「よっしゃ!」


ボールが地面に落ちた瞬間、笛の音とともに後ろコートから歓声が上がる


聖様が汗を拭きながらつぶやいた


「なっがいラリーだな。だいたい一分くらい?ずっとカバーに回ってるのもつかれるね~」


照明の光が汗に反射してキラキラ輝く笑顔だった。無邪気な表情とは裏腹にその瞳は相手チームを威圧していた。

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