「3-17」無能勇者、執念に敗れる

 暫くの沈黙。衝撃で俺の思考速度が低下しており、噛み砕くように少しずつ理解をしていった。……何度頭の中で唱えても、やはり聞こえてきたのは意外すぎる条件だった。


「俺はこんな爺だけどな、実は剣士としての腕に覚えがある。英雄英傑に及ぶかどうかは分かりゃしねぇが、あんたの露払いぐらいはこなしてやるよ」

「いや、そうじゃなくて! 何で俺たちのチームに入りたいんですか!?」

「そりゃあこの目で見届けてぇからだ! 俺の打ったナマクラが、世界を脅かす魔王サマをぶった斬る瞬間をよ!」

「そんな理由で連れていけませんよ」

「おっと、今のは最初だから見逃してやるが、口には気をつけろよ? 鍛冶師にとって、自分の作品が意味を持つっつーのは最高の名誉なんだ。馬鹿にしてくれるな」


 俺は言うに言えない隙を与えてしまった。不味い、この人は本気だ。ついてくる根性だけで言えばイグニスさん以上の熱意を感じる……たしかにペパスイトスさんは強い。仲間になってくれれば心強いだろう、でも……やっぱり。


「頼む」

「えっ!? ちょっと……やめてくださいよ」


 頭を地面に、それは東国の最大礼法に語り継がれる土下座という形だった。俺は今まで、妖精たちはとても気高い種族だと思っていた……しかし、何千年もの時を生きた存在にここまでさせるとは、職人の執念とは末恐ろしい。


「……分かりましたよ」


 俺の絞り出したような声に、地面に付けられた頭が上がる。その表情はなんとも晴れやかで、これからどうしたものかと俺は思い悩んだ。


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