最終章 もう遅い! あたしは宏太と生きていく
そして、夏休みが終わった。
あたしは、親との約束通り学校に戻った。
それは断じて『またイジめられたらどうしよう……』なんて不安を抱えての登校なんかじゃない。堂々と、胸を張っての
あたしは八月の間に何度かライブを行い、動画を投稿した。どれも、好評。再生数は着実に伸びている。
もちろん、トップクラスの
――岐阜にもついに、ご当地
そう、沸き立ってくれている。
少しだけど、海外からも反応があった。課金もあった!
――一緒に
そう言って、あたしのライブにお金を出してくれた。
嬉しい。
その一言。
やってよかった。
心の底からそう思った。
そう。あたしはすでに岐阜のご当地
そして、
つまり、あたしも、
そんなあたしたちが並んで登校する様を、同じように登校する生徒たちがチラチラと見ていく。遠巻きにしながら、近づきたい、でも、近づけない、そんな感じでチラ見していく。
ああ、快感!
ほらほら、どうしたの? 前みたいにイジめて見なさいよ。『勘違いしてて草』とか
できるわけないわよね。挑戦もしないうちから『できっこない』なんて決めつけて、挑戦する人間を
他の生徒たちの視線に自尊心をくすぐられながら学校に向かうあたしに向かい、ひとりの女子生徒とが駆けてきた。メガネに三つ編みって言う、いかにも二昔前の優等生って言う感じの女子生徒。
「
って、その女子生徒はやけに嬉しそうにあたしの名前を呼びながら駆けてくる。
「動画、みたよ! すてきだったあっ!
って、
「あら、
うう~、気持ちいい!
「あ、
「そうだった? 覚えてないなあ。あなたとは確か、ずっと他人だったはずだけど」
あたしの言葉に――。
ふん。いい気味。あんたはあたしを利用しようとして側にいたんでしょ。あたしがアイドルになったからってヨリを戻そうとしたって『もう遅い!』なのよ!
「さあ、行こう、
「えっ? で、でも、いいの?
赤の他人のことをわざわざ心配してあげるなんて、
あたしは心からの微笑みを浮かべて
「いいの、いいの。これからは本当の友だちを作るんだから。さあ、行こう!」
あたしはそう言って
始業式の終わったあと、あたしと
夏休みの間に、学校側に『
『地域のためになるなら』って、学校側はあっさり許可してくれた。
そして、あたしと
「ここからあたしたちの活動がはじまるのね」
「うん、そうだよ、
歌はそう言って、相変わらずの思春期前特有の無邪気な笑顔を向ける。
野比のび太そのままの幼くて、平凡な顔立ち。それがいまではもうかわいくて仕方がない。もうずっと、見つめていたいぐらい。
これからここに、
そして、あたしは、
そう思う。
でも、それはアイドルになって世間から注目されるようになったからじゃない。学校以外に居場所ができたから。
いまのあたしは学校の一生徒と言うだけじゃない。
そう。それこそが、あたしが本当に欲しかったもの。スクールカーストなんかに
なにも『学校をやめる!』なんて極端なことを言う気はない。大学まではちゃんと卒業するつもり。パパとママの手前もあるしね。それでも、学校以外にも居場所がある。学校でなにかあったらそっちで生きていけばいい。そう思えるのはすごく楽。安心できる。
逆も同じで、
――いくつもの居場所があるって大切なんだ。
つくづくとそう思う。
そして、あたしにそのことを教えてくれたのが
このひ弱で、背も低くて、やせっぽちで、勉強もできなければスポーツもダメ。中二ににもなって異性のことを意識ひとつできない中身小学生。そんな男の子があたしの一番、欲しかったものを与えてくれた。
そう思うと、心の奥からじんわりとしたものが湧きあがってくる。
「……ありがとう、
「な、なに、急に……⁉」
「
「そ、そんな……。お礼を言うのは僕の方だよ。僕のいきなりの誘いに全力で答えてくれたんだもの。ありがとう。本当に」
「そう。これから、あたしたちは一緒に
あたしがそう言うと、
「わかってるよ。全力で、
「そこじゃない! この鈍感!」
「痛いッ! なんで、殴るのさ⁉」
「うるさい! 当然の報いよ」
あたしの叫びに――。
まったくもう、この天然無自覚だけは。
だいたい、いったいいつまで『
よし、決めた。絶対、決めた。何がなんでもこいつに、自分から『
『好きだ!』って、言わせてやる。
あたしの初恋を奪ったその責任、絶対にとらせてやるんだから!
完
あたしは『のび太』に初恋を奪われた 藍条森也 @1316826612
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