第4話Ex:仕事仲間と

「人の死を知りたいって、具体的にはどういうことなの?」


 ケータイショップに向かう道中、サクが言う。

 辺りの景色に夢中になっていたユナは慌ててサクに目を向ける。サクの刺々しい雰囲気は一変し、今日は表情も柔らかい。


「…人が死んだ時、 死んだ本人は何を考えてるのかとか、 まず口にする言葉はなんなのかとか…意外と曖昧な存在な気がするんです。死って」


 死んだ時、人は何を思うのか。死んだ先の人生はどんなものなのか…数えだしたらきりがないほど多くの疑問がユナの中にはあった。


「それは私達には教えられないなぁ…そこまで考えて死神やってないから」

「……ライアさんは…どうして死神に?」


 ライアの言葉にユナは訊く。


「死が見たかったから…かな?」


 想像の斜め上の答えにユナは戸惑う。


「えぇと…それはどういう…」

「なんだろうなぁ…いつもと違う大事件って、 なんとも言えない高揚感があるじゃん?」

「はぁ…」

「あの感覚が好きでさ…もう今は感じなくなっちゃったけどね」


 物憂げな表情でライアは語る。


「そこにあんたが来た。これこそ大事件だよ」


 古臭くなった感覚を再び呼び覚ましたユナの存在は、一人の女性を釘付けにしていた。


「結局はまたあの感覚に浸りたいからつるむってこと?」


 ポツリと歩きスマホ中のサクは言う。


「ちょっと!変な言い方しないでよ!」


 慌てて弁解するライア。ウソはついてないだろう。ユナの直感はそう言っている。


「否定はしないんですね…」


 クーアの言葉を聞いたライアは咳払いをして「私はユナちゃんを手助けしたいの」と照れくさそうに言う。


「手助けしたい」なんて言われたことのないユナは動揺しながらも礼を言った。


 ◇


「いや~ケータイ買うのって何かと面倒だよねぇ~。手続き長すぎ」


 溜息を付くライアの隣を歩くユナの掌には黒いケータイがあった。

 ディスプレイに映るカラフルなアプリの数々を見て、ユナはなんとなく安心する。


「それじゃあ家帰ろっか」

「あ…今日はありがとうございました…また…会いましょう…?」


 慣れない別れの挨拶をして、三人の横を過ぎていくユナ。


「え?待って待って!」


 ライアが慌ててユナを呼び止める。

 振り返ったユナのキョトンとした表情から察するに、呼び止められた意味がわかっていないらしい。


「一緒に帰らないの?」


「あ、一緒に…そっか…一緒に…」


 毎日習い事に追われ、誰かと帰ることなんてできなかったユナにそんな経験はできなかった。


「もう前の環境とは違う――肩の力抜いたら?」

「…そうですね」


 サクの言葉にユナは静かに言う。

 ユナは三人組の中に交ざり、帰路についた。


 ◇


「ただいま…」


「おかえり」の言葉は聞こえてこない。

 だからといって留守な訳でもなく、ニュースキャスターの声は確かにリビングに届いている。

 返事がないのは想定内。リビングに入ると、ソファので欠伸をする死神の姿があった。


「死神さん」


「…」


「死神さん!」


 語気を強めると、死神はやっとユナの方に首を向ける。


「なんだよ…」

「私、やっと自分が死んだ、って自覚できた気がする」


 凛とした視線が死神に突き刺さる。


「死神さんの仕事仲間がいなかったら、多分こうはなってない。礼を言うのはなんだか気が引けるけど…ありがとう」


 死神の表情が僅かに柔らかくなった……ように見えた。


 ◇


 淀んだ空気にホコリの匂いが充満している。


「いつ頃アイツに声をかける?」


 タバコをふかしながら、青年は隣に座る相棒に言う。

 街の一角にあるこじんまりとした空き家。

 近寄り難い雰囲気を漂わせるその中で、青年たちは怪しい会話を繰り広げていた。


「Wait…今はいいだろ。せっかくの『キングスマン』上映会だ。素直に楽しもう」


Manners maketh man礼節が人を作る.』


「いいね、このセリフ」


「ったく…」


 …案外危ない奴らではないのかもしれない。














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死に装束は引き裂いて ゆき。 @yukiyukiay

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