第9話 ハナトラノオ殺人事件①
「あら、どうしたの?」
山下が心配そうに灰川を見る。
「すみません。何でもないです。続けてください」
「では……調べてみると三日前にも九条信也という吉沢の部下も殺されていることが分かったんです。連続殺人の可能性が高くて、それになんかよく分からない状況で亡くなっていて、どうしても灰川の力を借りたいと思ってここに来たんです」
「そうだったの、大変そうね。英治さん、協力してあげたら?」
灰川はじっと拾ったクロワッサンを見つめている。
「分かりました。協力します」
「ほんとか?ありがとう!灰川!ほんとにありがとう!」
「よかったわね」
「じゃあ、さっそく現場に行こう。住所はメールで送っておく。僕は捜査資料を署の方に取りに行ってくるから、山下さん、灰川を送ってもらえますか?」
「もちろん!」
「では、お願いします!」
岡山は勢いよく外に飛び出していった。
「私はちょっと店の戸締りをしてくるから、先に車の方に行っててくれる?」
「分かりました」
山下が急ぎ足で玄関から出ていき、一人になってゆっくり立ち上がった灰川の口角は上がっていた。
吉沢の事務所に到着すると、まだ何人かが鑑識作業を行っていた。
灰川は吉沢の頭の上から見下ろすように遺体を観察する。
吉沢の遺体は、扉に足を向けた状態でめった刺しにされて倒れており、凶器と思われるナイフ吉沢の横に落ちている。吉沢の頭の右側には鮮やかなピンク色の花が置かれている。
灰川が右側をふと見ると、そこには椅子が置かれておりその上に首を吊るためと思われるロープが天井から垂れている。
この椅子は吉沢の頭側にある仕事用の机とセットのものだと思われる。この机の向こう側には窓が二つある。
その窓の外は細い路地になっており、事務所は3階にあるためなかなかの高さだった。
扉が開く音がして、岡山が周りの警察官に会釈しながら入ってくる。
「じゃあ、今のところ分かっていることを知らせておくよ」
岡山が灰川のことをちらりと見ると、彼は無表情で遺体を見ていた。
岡山が捜査資料をまとめたファイルを見ながら話し始める。
「亡くなったのは吉沢高宏、62歳。以前から闇金のやり取りがあったとのうわさが多くあった男らしい。死因はおそらく刃物で刺されたことによる出血死、17回刺されている。そして、隣にある花はハナトラノオという花で、そこのナイフがまだ調べてはいないが凶器と考えている。そして、反対側にあるのがなぜか首を吊るための道具。あそこの窓は発見されたときから閉まっていたようで、ここが3階であることからおそらく犯人が出入りしたのはこの扉で間違えない」
「なるほど」
「それにしても痛かっただろうな。こんなにたくさん刺されて、成仏されればいいけど」
そんな岡山の言葉を聞いて灰川は少し鼻で笑った。
灰川以外の人たちにこの小さな笑いが聞こえることはなかった。
クロワッサン かおる @kaoru_s
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クロワッサンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます