第8話 過去の足音
7時半、灰川がソファーで目を覚まし起き上がると、習慣のように歯を磨いて着替えて身支度を済ませる。
そして、そのまま事件のファイルが並ぶ棚から1冊の分厚いファイルを取り出す。
ソファーに座りながら、新聞を読むようにそのファイルをゆっくりと眺める。
しばらくするとチャイムが鳴る。
灰川は先ほどまで読んでいたファイルを棚の奥の方にしまい、玄関まで歩いていく。
扉を開けた先には、山下が笑顔で立っていた。
「おはよう!」
「おはようございます」
「はい!これ!クロワッサンとカフェラテ!」
「ありがとうございます」
灰川が財布からお金を出そうとすると
「いいの、いいの、お金なんていらないわよ。ちゃんと食べてくれれば、うれしいから!」
「そんな、いつももらってばっかりで」
「いいから!いいから!」
「分かりました。ありがとうございます」
「もしよかったら、私もコーヒー飲んでいってもいいかしら」
「どうぞ」
灰川はスリッパを山下に出して、2人で中に入っていく。
ぼんやりとクロワッサンを食べている灰川を見て山下が話しかける。
「英治さん、他のパンも今度から持って来ましょうか?クロワッサンだけだと飽きない?」
「いえ、おいしいですから」
優しい笑顔で答える。
木下が心配そうに灰川を見つめていると、再びチャイムが鳴った。
灰川が玄関に向かって扉を開けると、汗をかいて息切れしている岡山が立っていた。
「どうしたんですか?」
「ちょっと解いてほしい事件があって」
「すみませんが、事件の捜査の依頼は二か月間あけてお願いします」
岡山は手を合わせて懸命に頼み込む。
「頼むよ―――――」
騒がしさに気づいた山下が灰川の後ろから歩いてくる。
「あら、岡山さん、どうしたの?」
「山下さん!昨日はありがとうございました!えっと……灰川に事件の捜査を依頼しに来たんですが……」
「あら、そうなの。話だけでも聞いてあげたら?岡山さん、疲れたでしょう。さあ、上がって」
ずうずうしくも山下は岡山にスリッパを出す。
「木下さん、ありがとうございます!」
灰川は圧倒されて二人に道を空けるしかなくなり、岡山と木下が事務所に向かってく後ろを無表情でついていく。
「さあ、岡山さん、こっちに座って」
「ありがとうございます!」
山下と岡山が並んで座り、その向かいに灰川が座るという構図になった。
灰川は何事もなかったようにクロワッサンを食べ始める。
「それで、岡山さん、今回はどんな事件なの?」
岡山は咳ばらいをしてから話し始める。
「今朝、10月6日7時頃、闇金のやり取りに関わっているとされていた吉沢高宏という男が彼の事務所で殺害されているのが発見されました」
灰川の食べていたクロワッサンが床に落ちた。
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