第7話 ご飯会②
岡山が料理を灰川の探偵事務所兼自宅に運んでいくと、灰川はソファーの腕かけの部分に頭をのせて眠ってしまっていた。
「起きろー、料理持ってきたよ」
灰川は眠たそうに体を起こす。
「ありがとうございます」
灰川と岡山でテーブルに料理を並べていると、山下がお盆にたくさんのクロワッサンとカフェラテをのせて持ってきた。
「あら、2人とも準備ありがとう」
山下は灰川の目の前にクロワッサン2個とカフェラテを置く。
「それじゃ、食べましょうか!いただきます」
『いただきます』
岡山は満面の笑みで大きな声で言うのと反対に、灰川は落ち着いた声であいさつする。
すごい勢いで岡山が料理を食べ始める。
「山下さん!どれもすごくおいしいです!特にこの肉野菜炒め、最高です!」
「そう、うれしいわ!遠慮しないで食べてね!」
「はい!!」
一口食べるたびに口角が上がる岡山を山下は嬉しそうに見ている。
岡山がふと手を止めて灰川の方を見る。
「灰川、クロワッサン以外の料理を食べないのか?めっちゃおいしいぞ」
「私は、カフェラテとクロワッサンを食べるのが日課なので」
「そうそう、英治さんは朝と夕飯にカフェラテと一緒にクロワッサンを食べるの。バランスよく他のもの食べたほうがいいって私は言うんだけど、まったく聞いてくれなくて」
「こんなにおいしいのにもったいない」
岡山は不思議そうな目でクロワッサンを食べるのに集中している灰川を見る。
「まあ、英治さんも子供じゃないんだから、好きにさせてあげましょ。ところで、岡山さんはまだ仕事があったんじゃないの?」
岡山は笑いながら答える。
「それ、今聞きます?山下さんが誘ってきたんでしょ?」
「確かにそうね。なんだか急に気になっちゃって」
「大丈夫ですよ。今日はもともと午前中までの予定だったんで。でもいろいろあってこんな時間になったんです」
「刑事さんも大変ですね」
「灰川、また難しそうな事件があったら頼むよ」
「2か月後以降でお願いします」
「そうだった。事件に関わるのは、2か月に一回って決めてたんだったな。分かったよ」
料理はだんだん減っていき、最後には完全になくなっていった。
「ごちそうさまです。お腹いっぱいです」
「そう、良かったわ。あら、英治さん、寝ちゃったのかしら」
「本当だ。起きろ灰川」
岡山が灰川の体を揺すって見ても、起きる気配が全くない。
「なかなか起きないわね」
「灰川の寝室どこですか?運んでいきますよ」
「ああ、英治さんならいつもこのソファーで寝てるみたいよ」
「そうなんですか?なんか、食生活といい生活環境といい、天才って我々凡人には到底理解できないことしだしますよね」
「そうね、私のエゴかもしれないけど、結婚して普通の生活の幸せを手に入れてほしいわね」
山下は灰川を母親のような表情で見つめている。
「灰川には恋人すら難しいと思いますよ。ついていける相手なんてそうそういませんって」
「それが何年か前まで恋人らしい人がいたのよ。本人に確かめてはないんだけどね」
「えー!嘘!先越された!」
「そうね3年ぐらいずっと一緒にいたわよ。部屋に生活感がないのはもとからなんだけど、その彼女らしき人の姿を見なくなってから部屋の生活感がさらに無くなって偏食も始まったわね。それから英治さんのことが心配でよく様子を見に来てるのよ。恋人じゃなかったとしてもよっぽど大事な人だったのかもね」
岡山が真剣に聞いているのに気が付いて、山下が我に返る。
「人のことを詮索するものじゃないわ。そろそろ解散しましょう」
「そうですね」
熟睡している灰川を起こさないように、山下と岡山で片付けを始めた。
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