第12話: 別レヲ惜シム者ニ出逢イハナイ

2人が取ってきた食材を慣れた手つきで捌き、昼食を振る舞った。特に大食漢のトンパは満足そうに腹を叩いた。大きな腹がぷるんぷるんとよく揺れる。


「いやー食った食った!最高に美味しいだべ…!また食べたいダス〜」

「いきなり頼み込んで悪かった!こうして美味しい料理にありつけてすごく幸せです!」

「本当にありがとうございました〜!」


そう言って冒険者達はそそくさと帰っていく。食後すぐ帰っちゃったよ!?すごい満足してくれていたし感謝してくれたけど


………あれ?お礼は!?とは言えないよな〜、元はと言えば幸の薄そうな冒険者達に昼食を振舞ってやりたいって言う思いから来てるんだから、礼をこちらから求めるのは野暮だよな。


シュヴィやアッシュも少し腑抜け表情でこちらを見ている。2人にはまるで名案があるといったふうに振舞っていたせいか、現状を打破する糸口さえ掴めなかった俺に少しは呆れているのだろう。


「お兄様。誰かに親切にすること、大いに結構ですが今の状況をしっかりと把握できてますか!?」


シュヴィがちょっと怒り気味でそう告げる。俺たちは宿から急に転移してきて、どこに敵がいるのかもわからないし、今後故郷へ帰る術も持たないのだから一般には絶体絶命といった状況だろう。


「2人とも、、すまなかった。目先の他人のことに囚われて自分たちが本当になすべきことを忘れていた気がするよ。」


アッシュはふんと鼻を鳴らした後にいつもの顔に戻った。シュヴィの機嫌が治るのには丸一日かかった。


その日は結局また洞穴で過ごした。最初は冷たかった洞穴はすっかり暖かい。


何日か日が経ち、ここでの生活に慣れてきた。早く安否を知らせたいという気持ちはあるが、安全でいたいと言う気持ちもあって、街へ行くのをずっと躊躇っていた。


そうして悩んでいた夜、俺は洞穴から1人散歩に出ていた。すると後ろから物音がして振り返るとアッシュがいた。


(ご主人様、こうしていても実家へは帰れないでしょう。そこで街へ行ってみませんか?そうして手紙を出すのがやはり良いと思うのです。)


ぬけぬけとそういうことを言う…、俺の不安心や奥手なところをしっかりと理解しているのだろう。


「あぁ、だがシュヴィを街へは連れていけない。隠しているつもりだろうがすぐに魔族だとバレるだろう。1人で洞穴にもおいていけない…、だから俺は1人で街へ行こうと思う。」

(異論ありません。自分はシュヴィ様と待機してご主人様のお帰りを待ちます。どうかご無事で…)


アッシュにそう伝えた。善は急げというのでもう既に支度を終えて洞穴を発とうとする。現代での夜中の3時ごろもちろん日は出ておらず辺りは暗い。その方が街に着くまで誰かと遭遇するリスクを減らせるだろう。


『別レヲ惜シム者ニ出逢イハナイ』これは小さい頃に本で読んだ言葉だ、別れを惜しみ、その場に未練を残せば、次なる出会いはないということだ。覚悟を決めて出立した。



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魔王兼お兄ちゃんのリョウスケが異世界で慕われて銅像になる話 蒲生 聖 @sho4168

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