第15話

 十田の謹慎令からしばらく経った。謹慎とは言っても、試合に向けての練習はある。十田は来る復帰戦にむけてジム通いは続けていた。


 この日も朝のロードワークを終えると、十田は近所のコーヒーショップへと出かけた。


「あ、謹慎ボクサーだ」


 一人の男が十田を指差して笑う。容赦の無い表現に十田は苦笑いした。


「おせーよ」


 もう一人の男が悪態をつく。十田は二人のいる席に座った。


「久しぶりだな」


「ああ、お互い全然変わらんな」


 コーヒーショップで十田を待っていたのは高校時代の同期だった。


 一人は都築一郎つづき いちろう。ガッシリとした身体に太いアゴ、短い前髪に反比例して長い襟足をした、アルゼンチンボクサーを思わせる男だ。


 もう一人は宮田一歩みやた いっぽという男で、ボクサーらしからぬ端正な顔立ちと美しく流れる金髪はバンドマンのようにも見える。


 高校時代が一緒であった三人はこうしてたまに会っている。三人が三人とも別々のジムに所属しているが、昔からの交流は変わる事はない。


「で、なんだよ。今日は?」


 十田は注文を終えるなり口を開いた。この日は都築と宮田の二人に呼び出されていた。何か発表があるからという事であったが、その内容は直接伝えるとの事だった。


「世界挑戦者決定戦が決まった」


 二人の声がユニゾンになった。


「マジか。で、どっちが?」


 十田は二人を交互に指差す。


「二人とも、だ」


 宮田が言った。その表情は笑顔でいながらもどこか複雑そうな雰囲気があった。


「先を越された。こっちは謹慎だぜ、畜生」


 十田は天を仰ぐようにイスの背もたれに寄りかかる。天井を見つめたまま十田は続ける。


「で、二人の対戦相手って誰なんだよ?」


「こいつだ」「この人」


『どいつだよ?』と思いながら十田は視線を落とす。視界に入った二人はお互いを指差していた。


「…………ハア?」


 十田は時間差で驚いた。都築と宮田が世界挑戦権を得るべく対戦が決まったのだ。十田は呆然と二人を眺めた。


「試合をするから友達じゃなくなるってわけじゃない。でも、だからって馴れ合うつもりもない」


 そう言いながら、宮田の眼光は少し鋭くなっていた。


「だから今日を機に、試合が終わるまでは会わないようにしとこうってわけだ」


 都築が宮田に続いた。彼も心なしか複雑そうな表情をしている。


「マジか……」


 十田は二の句が継げなくなった。高校時代から三人でつるみ、良い時も悪い時も互いに切磋琢磨してきた。その内の二人が世界挑戦権を得るために潰し合うのだ。十田が素直に喜べないのも当然である。


(ここまで書いて作者がデータを紛失したため、作品はここで終わっている。のちにこの作品は「PCM」というタイトルで全く別物として生まれ変わった)


※追記

 リアルで本当に元ジムメイト同士が試合になってつらくなったので書けなかった気がいたします。(うろ覚え)

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孤島の拳(未完) 月狂 四郎 @lunaticshiro

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