第10話 部屋 バインダー サンドバック

 男は不動産業界で働いている魔法使いだった。

 魔法使いであるためちょっとしたずるをしていた。

 バインダーに部屋を閉じこめる魔法だ。といっても現実にも実在している部屋だ。魔法で作っているわけではない、現実に依存した存在であり空間だ。

 ただ、出口にない部屋というか空間も物件として取り扱っている。さらにいえば空間のパスを勝手にバインダーに閉じ込める、ランダムガチャもあるため男が覚えのない物件もある。

 男が仕事中にバインダーを眺めながら客を待っていると、扉をけたたましくあけられた。

 見れば客は血にまみれて顔に傷があり、いかにもスジモノという風貌の持ち主だ。

「おい、お前、不動産屋、俺をだれにも見つからない物件を教えろ!」

 ナイフを突きつけ男は魔法使いをせかせた。

 魔法使いも慌てふためく、奇妙な空間魔術を使うが際立った才能を持っているからといって、荒事になれた人物になるというわけでもない。

「こ、この物件なんてどうですぅコンビニエンスストアが近くて便利」

「すぐ見つかるだろ、バカかお前は?」

「す、すいません、じゃ、じゃあ、この青空が一望できる」

「どう見ても空中じゃねぇか、俺が鳥に見えるのか?」

 そうとんまなやり取りが続いていると、男の方で苛立ち部屋バインダーを奪った。

 そうしていると、男を追跡してくる黒服が銃を構えてやってきた。

「くそ、ここにしてやる、あばよ!」

「あぁ、お客さん、代金、あぁ、いっちゃった」

「おい、お前、さっきの男がどこに行ったのか知っているのか?」

「一応ログはありますけど、あぁ、あの人がいった場所、あちゃー、かわいそう」

「どこ行ったんだよ、俺たちはあいつを殺さなきゃ」

「いや死にますよ」

「どうしてだ?」

「サンドバックの中に入ったんですよ、剛腕のプロボクサーの」

「は?」

「ランダムガチャでこんなのがあったんですね」

「で、でもそれでも死ぬとは限らんだろう」

「お客さんで砂虫を捨てたいといった方がいまして、そのサンドバッグにいるんですよ、砂虫」

 骨の髄までむさぼられるんじゃないですかねぇ、そうあっけらかんという魔法使いに黒服たちはドン引きしていた。

「あ、新しい商売ができましたね! 殺したいやつを贈り先にする不動産屋!」

「怖すぎて、誰も入らねぇだろ、なんだよ、その怪談」

「ですかねぇ、あ、お客さん」

 どんな物件をお探しで? 魔法使いはにたりと笑った。

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三題噺 練習 ゴトー宗純 @goto01058819

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