9 頭に触れる
第6話の窓を叩く者でもお話を提供して
くださった、
Kさんという女性の体験談です。
2023年の夏に、
彼女はある不気味な体験によって
眠れぬ夜を過ごしました。
Kさんはこの時、沖縄にある実家で暮らしていました。
ある日、
何がきっかけになったわけでもなく、
寝苦しさから目覚めたKさん。
瞼を閉じているのですが、なぜか
天井に妙な気配を感じて、
そっと薄目を開けました。
徐々に開いていくと、だんだんと
見慣れた天井が見えてきたのですが、
彼女は目を開ききる前に動きを止めました。
天井に、
白い服を着た女が張りついていたのです。
まるで、エクソシストのように、重力と関節を無視した四つん這いの格好で、
顔だけをこちらに向けてきている。
長い髪は蜘蛛の巣のように天井にへばりついて
いました。
(このまま目を開けたら、
あの女と目が合ってしまう。)
その事が恐ろしく、Kさんはゆっくりと
目を閉じて女にこちらが気づいたことを
察せられないように、息を潜めました。
すると、ふっと気配が消えたので
慌てて起き上がると、天井には何もなく
時計は朝の4時を指していました。
女がいなくなっていたことに
ほっとしたものの、
今思うと、これは始まりにすぎなかったと
Kさんは言います。
それから何日か経ったある夜。
冷房が効いた自室のベッドで眠りにつこうと目を閉じると、突然、心臓を鷲掴むような強い痛みがKさんを襲いました。
呼吸が浅くなり、
ここで寝たら死んでしまうと本能で
感じたKさん。
必死に目を開けて身体を起こすと、
不思議なことに、すーっと痛みが引いていったのです。
ただ、残念なことにこの日から数日間、Kさんは心臓の痛みに悩まされることになります。
毎日、毎日。
眠りにつこうとする瞬間にぐっと心臓が痛くなる。
時間は決まって夜中の2時。
比喩でもなんでもなく、人の手に握られているような痛みに襲われるので、Kさんはだんだんと疲弊していきました。
(もう勘弁して…。)
限界まで追い込まれたKさんはその日、
眠るというよりも気絶するような形で
ベッドに横になりました。
意識が薄まる感覚に今日こそ眠れると
期待した矢先、無慈悲にも痛みに襲われて落胆するKさん。
しかし、同時にいつもと違うことが起こり、Kさんはぎょっとしました。
ザー…ザザッ…ザー…
まるで、テレビの砂嵐のような音が聞こえてきたのです。
それは徐々に大きくなり、激しいノイズが頭の中でガンガンと響きわたります。
心臓の痛みよりも、そのノイズに苦痛を感じはじめた時、頭の上に妙な気配を感じました。
頭側はすぐ壁なのですが、そこから何かが出てきて迫ってきている。
目を閉じて何も見えない状態でありながら、
Kさんはそれが、人の手のようなものだと
分かったそうです。
壁からするすると出てきたそれは
指を動かして、Kさんの頭に触れてきました。
その瞬間、Kさんの心に沸き上がったのは、
恐怖よりも怒りでした。
(最悪!また眠れないの!?)
数日間にわたって眠りを阻害されたことに
苛立っていたKさんは、怒りに任せて
頭を触る何かを払おうと手をのばしたのですが、反射的についそれを掴んでしまいました。
Kさんはゾッとしました。
正直、ただ触られている感覚だけが
あるのだろうとばかり思っていたのに、
手は明らかに人の手を掴んでいる。
骨の出っ張りと肉の感じ、手の中におさまる細さから、それは女性の手首だったといいます。
唖然として何もできないでいると、
握っていた手は煙のように消えて、
ノイズはピタッと止みました。
この日以降、Kさんは胸の痛みに
襲われることなく、
ぐっすり眠れるようになったそうです。
「実は、頭に触られるのは
これが初めてではないんです。」
と、Kさんは話します。
なんでも、子供の頃から
家の中で何かに頭を触られることがあり、
親に聞いても「何のこと?」と
反対に気味悪がられることが
多々あったのだとか。
その時の頭に触れる感覚は、
女性の手で触られる感じと同じ
だったそうです。
子供の時に触ってきたもの、
ベッドの枕側の壁から伸びてきた手、
天井に張りつく女…。
それら全てが同じものによって引き起こされた怪異という確証はありませんが、
何かしらの関連があるのではないかと
思えてなりません。
匯畏憚-かいいたん-実話録2 遊安 @katoria
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