8 ナビが案内した先
これは今から6年前くらいに
私が体験したお話です。
当時介護職を務めていた私は
上司から命令されて
年末にある忘年会で
同期達と一緒にダンスを披露することになっていました。
8月の終わり頃に通達があり、
私達は仕事終わりに集まって
当時流行っていたダンスの練習を
していました。
いつもは地元の体育館を借りて
練習をするのですが
どうしても借りられない日があり
リーダー役の子からその日だけ、
別の場所を指定されました。
そこは、Y展望台というところで
リーダーが言うには場所が広く、野外だけれど民家が近くにないから音楽を流しながらの練習にもってこいだとのこと。
私は他の子と違い、別の市から通勤していたため、名前を聞いただけでは場所が分からず
住所を検索してカーナビに入れました。
表示された場所に、私はぎょっとしました。
人里から大分はなれた山のなかに
目的地を示すピンが立ったのです。
本当にここかと住所を見返しますが
番地まで間違っておらず
展望台というから山の中にあるのかなと
思い、車を発進させました。
慣れていない道のせいでしょうか。
カーナビ通りの道を進んでいるのに
なぜかルートが何度もかわり、
山にたどり着く前に集合時間ぎりぎりになってしまいました。
街灯が減り、薄暗い田んぼ道を進んでいくと
やっと山の入り口にたどり着いたのですが
あまりにも道が狭い。
私はその時軽自動車に乗っていたのですが、
それでもぎりぎりの幅で、本当にここでいいのかとカーナビを見ても、そこ以外道がありません。
真っ暗で先が見えない暗闇の中、
舗装されていない道に乗り上げました。
坂道になっていたのですが、
角度が急でアクセルを踏み続けないと
後ろに持っていかれそうになりました。
登っている間、道幅はどんどん狭くなり
とうとうハンドルを3センチでも左右に動かせば谷に落ちてしまうような、
油断ができない状況になり、私は焦りました。
『300メートル先、直進です』
カーナビの声を信じて進んでいく。
坂道はどんどんと角度を増していき、先が見えなくなっていく。
窓からは深い崖が見えて、ハンドルをろくに動かせません。
『100メートル先、目的地です』
あと少しでつく。
リーダーの子が言うには開けた場所だから
頑張れ!大丈夫!
私は自分を鼓舞してアクセルを踏みました。
少し平らになった所へ車が乗り上がります。
『目的地周辺です。お疲れ様でした。』
その声が聞こえるや否や私はブレーキを
強く踏みました。
そして、ライトに照らされたフロントガラスから見えるそれを見上げて、言葉を失いました。
それは、大きな赤い鳥居でした。
古いもので、少しくすんだ色をしており
鳥居の先は壁のようにそびえた石の階段があります。
鳥居のすぐ側には石の柱が建っていて神社の名前らしき漢字が彫ってあるのですが、ライトの当たり方が悪いのか日本語なのに読むことができません。
何ここ…。
展望台とは明らかに違う場所で、
正しい場所にいかないととは思いましたが方向転換もできず、頭が真っ白になりどうしたらいいか分かりません。
固まっていると、スマホに着信が。
同期の子からです。
私は震える手でスマホを耳に当てました。
『遊安ちゃん!?どこにいるの!?
みんなもう集まってるよ。』
同期の聞きなれた声にほっとしました。
彼女は地元の子で、しっかりした性格で
頼りになる人です。
私は安堵して口を開きました。
「ごめんなさい。カーナビにいれたんだけれど
今、変なところに来ちゃって。
山の中の神社なんだけれど。
ここからどうやっていけばいいのかな。」
私がそう言うと、彼女はえ?と声を漏らしました。
『神社なんて知らない。
どこにいるの?』
その瞬間鳥肌が立ち、ここにいてはいけないと
分かり私は早口で
「ごめん!一旦降りる!ほんとにごめん!」と
叫ぶように言ってそのままバッグで下りました。
途中何度か崖に落ちそうになりましたが
細かくブレーキを踏んでなんとか山の入り口まで戻りました。
1、2分もかからなかったかと思いますが
体感では数時間にも感じました。
平らな広い道に出て呼吸を整えてから
同期の子に連絡をして住所を教えてもらいました。
それは私がカーナビにいれたのと全く同じ
住所で、結局山に入るのは一緒かと落胆しました。
スマホの画面を確認しながら、もう一度カーナビに住所を入力します。
『目的地を設定しました。』
表示されたのは、全く違う場所。
今いる場所から5分ほど離れた山を指定されました。
今度のルートの道は幅が広く舗装されており、スムーズにY展望台にたどり着きました。
先に待っていた同期と合流して、ダンスの練習をすることができ、そこでやっと息ができたのを覚えています。
後日、Y展望台について調べてみました。
そこで知ったのですが、
Y展望台はマイナーな心霊スポットとして
オカルト界隈で知られており、
自○の名所としても有名な場所だったのです。
神社についても調べましたが、
私があの時行ったのと同じ見た目の神社は出てきませんでした。
あの日、私がたどり着いた神社はなんだったのでしょうか。
心霊スポットY展望台との関係があったのか、分からないことばかりでモヤモヤが残る体験です。
匯畏憚-かいいたん-実話録2 遊安 @katoria
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