真珠
茶々
真珠
銭湯で香り高い真珠を肌に滑らす人がおりました。その肌はしっとりとなめらかで、とても良い香りがしました。あの素敵な人が私のいるお湯に入ってくるのです。そこで、お湯に暖められた肌の薫ることといったら。私はあの人と同じ湯槽の中に、少しの間もとらないで、座っていられるあのときが、日々の何より好きでした。そうだ、あの人は艶めかしい、少し茶色味のかかった長い髪を持っておりました。 その髪のうねる様をこっそりと眺めていたものです。その髪は小さい湖の中で、優游自適に靡いておりました。私には湖の主か女神かに見えたものです。
─────また想い出しました。あの人は、黄色の湯桶を持っていました。少し年期の入った、年老いたプラスチックでした。あの中に、真珠の薫りの秘密も入っていたに違いありません。そこに、ごわごわと、しかしフワフワとしている様にみえるタオルも入っておりました。 あのタオルだけが、あの人の濡れた髪を撫でれるのです。幾度となく恨めしく思ったことか。
ふと、思い出しました。いつだったか、あの人がお風呂上がりに、手渡しで麦茶をくれたことがありました。そのときの嬉しさと言ったら。今でも瞼を閉じたすぐ後ろに見えるのです。あれ以来、私は麦茶が好きになりました。今でもお風呂上がりに麦茶を飲むクセがついています。けど、あのときと同じ味に再び会うことはありません。きっと一生。でもあの味は、香りは、舌触りに温度まで、忘れることが出来ないのです。憎い人。恐ろしい人。私に二度と見れない一瞬を幻として与えた人。私は何度も欲してしまう。もう会えないと知っているのに。知らなければよかったと、何度思ったことでしょう。愛しさ溢れて貴方のことを何度憎んだことでしょう。あのときのことは全て夢だと、誰かあのことは何時か観た映画だと、リモコンで画面を閉じてくれないでしょうか。そうしたら私は…。それでも、瞼をとじたあの瞬間に、一生のうちで一番美しい、鮮やかな夢をみられるのなら、永遠に盲目になってもいい程に、愛しているのです狂う程。だから、夢幻でもいのです。
真珠 茶々 @kanatorisenkou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます