第22話 決意する男




「やられた、って……、どういうことだよ!? 於保多さん!?」


『言葉通りの意味だ。……救援の要請があり出撃したが、そこで敵に返り討ちにされた』


「嘘でしょ……」


 ようやく事情がのみこめては来た。だが、信じられる事実ではない。


「一体なんで!? いや、どいつにやられたんだ!?」


『……眞栄城。落ち着いて聞いてくれ。太刀峰たちがやられたのは……、お前が取り逃がしたソードグリズリーだ』


 瞬間、今まで立っていた地面が急に消失したような感覚があった。



   ◇



 家に帰り着いて、俺はドアに鍵をかけると俺はベッドに向かった。

 辿り着いても寝ることはせず、へりに座る。

 あの後、於保多さんがこの先は会社で話す、というので俺はそのまま会社に行った。

 考えてみれば……、俺が着いた時点で於保多さんの勤務時間は終了間際だったわけで、随分な迷惑をかけてしまったことになる。

 しかし、於保多さんは嫌な顔一つ見せずに、事の詳細を説明してくれた。

 まず、こちらの太刀峰さんたちは無事だそうだ。あちらで戦っているのは強化調整体であり、こちらとは別の肉体なので無事なのは当然と思えるかもしれないが、生きたまま喰われるなどの経験をしたことで精神に重大な変調をきたす者も少なくない。

 この点に関しては、後日精密検査が行われるものの、一撃で絶命したこともあって可能性はゼロに近いらしい。不幸中の幸い、というヤツだ。とりあえず一安心である。

 次に、強化調整体は撃破されるたびに魂との接続が怪しくなり、通算で計3度撃破されてしまうともう戦闘では事実上の使用不能となってしまい、マインナーズとしては引退するしかないという問題があるが、これも太刀峰さんは初めてのことなので大丈夫だった。

 指先などの末端に時々しびれを感じる程度だろう。それだって引き金を引くなどの精密動作の邪魔にはなるが、引退の直接的な原因とはならない。

 とはいえ……失った強化調整体の再製造には少なくとも数カ月が必要だ。それまで現場復帰はどう考えてもできない。

 肝心の本人、太刀峰さんはどうするつもりなのだろう?

 などと考えていると俺の個人端末が鳴った。

 メールの着信音だ。

 端末の画面を立ち上げると、太刀峰さんからだった。

 珍しいことだった。個人メールアドレスの交換はしたが、お互い数えるほどしか利用した記憶がない。

 開いてみる。内容は以下であった。


『よう、眞栄城。久々にメールを送ることした。少し伝えたいことがあってな。

 於保多さんから話は聞いた。まず、お前が責任を感じる必要なんかないんだぞ。

 俺たちの負けは俺たちの責任だ。ただ相手が強く、俺たちが失敗した。それだけのことなんだ。

 於保多さんも言った通り、お前は任務を完遂した。俺たち救援課の仕事はそれでいい。敵を倒すことは二の次で、味方を救助することこそ本命なんだからな。俺たちはそれを見誤っただけだ。くやしいことはくやしいけどな。まぁ、仕方ねえ。

 ただ、これも於保多さんから聞いたんだが、本格的な討伐隊が編成される前に、ウチの社内でもどうにか討伐を目指すつもりらしいな。このままアイツを放っておいたら、あの近辺でのマインナーズ活動ができねえ。当然の判断だと思う。

 そこでだ。於保多さんを後押しするわけじゃあねえが、どうせやるのならお前にアイツの討伐をやって欲しいと俺は思ってる。

 責任を感じるなと前置きしておいて矛盾しちまうようだが、これが正直な俺の気持ちだ。カタキを取ってもらえるのなら、他の誰かじゃあなくお前が良い。

 それに、アイツを倒せるのはたぶん、現状じゃあお前しかいねえんじゃあねえかって思ってる。

 そうそう。俺のことなら心配するな。まだまだ子供も小さいからな。育児休暇を取り直す良い機会になったよ。

 伝えたいことは以上だ。じゃあな』


 読み終わって、俺の気分は少しだけ晴れた。

 あくまで文面からだが、太刀峰さんがそれほど意気消沈しているワケじゃあないとわかる。最後の育児休暇うんぬんの文章は強がりだとしても、復帰する気満々というか、すでに復帰した後のことにも思いを巡らせてる感じがある。

 一流の人は気持ちの切り替えかたも一流ということか。

 俺も見習わなくては。

 さしあたっては太刀峰さんからのメールにもあった通り、社内の討伐隊に立候補するかどうかだ。打診はすでに受けている。

 於保多さんからも、俺が適任だと言われた。

 返答の期限は明日。

 俺はベッドに寝転がった。

 寝る気はないし、眠れる気もしない。打診を受けるかどうかまだ決めかねていたからだ。

 しかし、この日は色々とあった。

 疲れていたせいか、俺はいつの間にか眠ってしまったようである。



   ◇



 朝、何とか起きれた俺は、学校に行った後に会社へと向かった。

 いつものように救援部対策課特別室に着くと於保多さんがつめている。

 そこで俺は一日考えた返答の内容を伝えた。


「討伐任務、受けてくれるか」


「うん」


 俺は於保多さんからの確認にしっかりと肯く。

 迷いはした。

 まず倒せるか倒せないかだが、これは問題にしていない。勝敗なんてモンは時の運だからだ。

 勝てる勝てないじゃあなく、俺にとってはやるかやらないかだった。結果はおのずとついてくる。無論、やるからには勝つ気で戦うが。

 むしろ問題なのは俺自身の方だ。具体的に言えば、中身の。

 前回、俺はチビドラゴンのことを戦闘中に思い出し、イキナリ調子をくずした挙句に大苦戦してしまった。ただ、これに関してはぶっつけ本番にはなるも、大丈夫だと俺は思っている。

 チビのことをまた戦闘中に思い出すかも云々よりも、そもそもが戦いの際中に別のことを考えることの方がおかしいのだ。それは戦いに対して、根本的に100パーセント集中できていないことを示す。危機感や緊張感が足りていない証拠だろう。コレを改めることから始めれば良い。俺はそう思っていた。

 更に、俺自身も太刀峰さんのカタキを俺以外の誰かに討たれるのはシャクだと実感したというのもある。太刀峰さんから直接頼まれたというのもあるが、やっぱり自分以外では納得できないし絶対後悔するに決まっているからだった。


「よし。では、今からある動画を観てもらうぞ」


「え?」


 俺はイキナリの申し出に戸惑う。


「私はお前にこの任務が適任だと推薦した。だが、正直に言うと、お前だけがこの任務に適任なんだ」


「俺、だけが?」


「そうだ。観てもらえば、その理由がわかるだろう」




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