コウノトリの置き違い
EVI
第1話: コウノトリの置き違い
コウノトリ。
この鳥は、赤ん坊を連れてくる鳥として、幸せを運ぶ鳥として知られています。
「この赤ん坊を、二つ隣の街に届けてください」
命の循環を司る神である、
夜はとても暗く、ほのかに見える煙だけが頼りです。
やがてコウノトリは一軒の家の前に降り立ちました。
(この家で大丈夫だったはず……)
赤ん坊を玄関前に置くと、コウノトリはまた、
♦︎♦︎♦︎♦︎
「どうやらあなたは、赤ん坊を置き間違えたようですね」
翌朝告げられたのは、どうやら昨晩コウノトリが持っていった赤ん坊は、別の家に置いていくものだったということでした。
(いまからでも取りにって本来届けるべきだった場所へ持って行かなければ……!!)
コウノトリは急いで昨日の家に向かいます。
(さて、どうやって赤ん坊を回収しようかな……)
直接この赤ん坊はあなたたちの家のこともではないから、渡してください。
と言っても、すんなりと渡してくれるわけはないでしょう。
その夫婦たちにとって、もうその赤ん坊は大切な家族なのですから。
コウノトリは頭を抱え、悩みました。
そして、悩みに悩んだ結果、夜にこっそりと赤ん坊を連れ去ろうと決めます。
(この夫婦には申し訳ないけど……許してくれるといいな……)
こうしてコウノトリは、夜が来るのを待ちました。
♦︎♦︎♦︎♦︎
あたりはだんだんと暗くなってきました。
(そろそろかな……)
コウノトリは辺りがある程度暗くなったあたりで飛び立ちます。
(あれ? なんでだろう。村が少し騒がしい気がする……)
村には、昼間よりも多くの人が外に出ていました。
村人たちは何かを恐れているように見えます。
「
(え? もしかしてわたしのこと……?)
この村では赤ん坊を運ぶことが少ないため、赤ん坊という存在がとても貴重なものでした。
その赤ん坊をコウノトリが回収して他の村に持って行こうとしているのを、どこかで気づかれたのでしょうか?
とにかく、今の村にとってコウノトリの存在は脅威でしかないのだということです。
けれど
(わたしはどうしたら……)
そのまま帰ることもできず、子供を回収することもむずかしい。
(けど……子供は本来の場所へ届けてあげなきゃいけないよねっ……!!)
コウノトリは悩んだ結果、多少の無理をしてでも、赤ん坊を回収することに決めました。
やがて人びとは焚き木の近くに集まり、コウノトリを追い払おうとします。
そしてその焚き木のそばには昨日間違えて運んでしまった赤ん坊も抱き抱えられていました。
(あの中を進むのはちょっと怖いかな……まずは人を減らさなくちゃ)
コウノトリは焚き木の周りを旋回して村人たちを誘導します。
「こっちにきたぞ〜〜っ!!!」
「こっちだ〜〜っ!!追いかけろ〜〜!!」
村人たちの怒号が追いかけてくるのを感じながら、コウノトリは全速力で飛びました。
石などを飛ばしてくる村人もいましたが、コウノトリのいる場所までは届きません。
(この調子なら、もう少し人を誘き寄せることができれば、赤ん坊を回収できるかもしれないっ‼︎)
コウノトリは自分の思い通りに村人たちを誘き寄せることができたので、とても嬉しくなりました。
けれど、その油断がいけなかったのでしょう。
今までは届かなかった石を一発、腕にくらってしまったのです。
コウノトリはバランスを崩し、地上へと落下していきました。
「
村人たちが近づいてくる声がします。
けれどもコウノトリは腕を痛めてしまい、うまく飛ぶことができません。
(あぁ……わたしももうおしまいか……)
コウノトリは、命の終わりを察しました。
次の瞬間、コウノトリはその命を村人たちによって奪われました。
村中が、熱気で包まれました。
これで村を襲う妖怪がいなくなったのですから。
しかし、その熱気に包まれた空気のなか、一人の村人が、何かを恐れるように声を上げました。
「これ……
それを聞いた村人たちも、コウノトリをよく観察し、その度に顔を青ざめていきました。
やがて、あの赤ん坊を連れた夫婦も、殺されたコウノトリを見て、他の人たちと同じように青ざめました。
「なんてこった……まさかコウノトリだったなんて……」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「あぁ…コウノトリが死んでしまった……」
同じころ、
「せめて、次の命は幸せにしてあげるからね……今は安らかにお眠り……」
自分のもとへ、魂だけの姿となったコウノトリに、一時の別れを告げる
「こんなことをしたあなたたちを、ぜったいに赦さないっ……」
以降、この村には二度と、コウノトリが舞い降りることはありませんでした。
そして、ゆっくりゆっくり、村は衰退へと向かっていくのでした。
コウノトリの置き違い EVI @hi7yo8ri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます