第22話 気付き


「アルム様、この依頼をお受けになるんですね。良いと思いますが、注意点だけ伝えておきます」


「はい、ルネさん、是非お願いします!」


 次に僕たちが受けたFランクの依頼は、タオリアの郊外にある常闇の洞窟の中にしか生えてないっていう薬草を採取してほしいというものだった。


 受付嬢のルネさんによると、ここは危険度はさほどではないものの、薬草が本当に見つかりにくくて、探し当てるのに時間がかかるという。


 それでも、その薬草は傷の回復だけでなく滋養強壮、免疫力向上等、かなり有用な効果を持つということで、父方の祖父のドレイクさんが罹ってるっていう重い風邪にも効き目がありそうだ。


 あと、ケルンの思わぬ実力の高さを知ったので、リリに加えて彼もいるから大丈夫だろうという結論に至り、僕たちは常闇の洞窟へ向かうことにした。


「少々お待ちください」


 リリが念のためにと目を瞑り、【超音波】スキルでシビルに信号を送る。力のある三人なのでそこへ向かうと報告するのだという。そうすると、シビルさんから応答が帰ってきたみたいでリリ。


「……シビル様によれば、三人なら問題ないが、何かあるかわからないので時間をかけすぎないように、とのことでございます」


「「なるほど……」」


 ケルンと声が重なる。そこで僕は気になったことがあった。


「そういえば、シビルさんは【超音波】スキルを持ってないのに、どうやってそれをキャッチして、応答を返せるの?」


「【超音波】スキルは、それをキャッチするほうも訓練によって応答を返すことができるようになる効果がございます。シビル様には我慢強く付き合っていただきました」


「……じゃあ、相当な信頼関係が必要ってこと?」


「もちろんでございます」


「ふーん……」


「アルム様、どうかいたしましたか?」


「いや、別に……」


 なんだか微妙な気持ちになっちゃった。孤児仲間として協力し合っていたリリとシビルさんだからこそ、そこまでの信頼関係を築けたんだろうけど、僕にも同じようなことができるんだろうかって。


 僕ってやつは、二人の関係に嫉妬しちゃってるのかな。それくらい、深い関係を築ける相手がいるということに。


 リリなんて好きでもなんでもないはずなのに、なんか変な感じだ。そんなモヤモヤを抱えたまま、僕たちは常闇の洞窟へ到着した。入口からしてもう、中がまったく見えない。太陽の光さえも遮断してるみたいだ。


 実際、そこでは明かりをほとんど通さないっていう特殊な仕組みがあって、昔ここに籠っていた魔術師の呪いが関係しているともいわれてるけど、詳しいことはよくわかってないんだ。


 ただ、洞窟といってもダンジョンのようにモンスターが登場するわけじゃなく、蝙蝠しか出てこないんだとか。だからこそシビルさんも反対しなかったんじゃないかな。時間がかかりすぎるのを嫌ったのは、それだけ敵対勢力の接触を恐れているってことなのかも。


「――暗っ……!」


「そうでございますね」


「暗いねぇ……」


 僕たちの話し声が反響する。なんだか声色まで暗くなってくるかのようだ。それくらい周囲の見通しが悪くて、完全な闇の中を歩いてるみたいだから前に進むのが怖く感じた。今にも壁にぶつかっちゃいそうで……。


 ただ、常闇といっても闇は闇。段々と目が慣れてきたらしく、明かりがなくてもなんとなく周囲の景色がわかるようになってきた。


「アルムゥ、僕、怖いよおぉ……」


「ケ、ケルン、そんなにくっつかないでよ。強いんだから、蝙蝠くらい倒せるでしょ……」


「うぅ。でもあれは、必死だったからぁ……。それに僕、暗いところもそうだけど、蝙蝠自体が苦手だし……」


「そういえば、蝙蝠って【超音波】を使えるんだよね? それで暗くても障害物や敵の位置もわかっちゃうとか」


「うう、アルム、怖いこと言わないでよ……」


 ケルンったら、小刻みに震えちゃって。本当に女の子みたいだ。その一方でリリは憎たらしいくらい堂々としていて、表情も一切変わらなかった。そうだ。冗談でも言って場を和ませようかな。


「……リリも【超音波】が使えるんだから、蝙蝠の仲間みたいなもんだね」


「……アルム様。私は蝙蝠ではございません」


「そんなことわかってるよ。ケルン、聞いた? リリは冗談が通じないタイプなんだ」


「う、うん。リリって面白いね……」


「……いくら褒められても、何も出ません」


「「ははっ……」」


 僕はケルンと苦笑し合った。本当にリリってそのまんまの人で、裏表っていうのをまったく感じさせない。



「「「――はああぁぁ……」」」


 僕たちの大きな溜め息が重複する。


 あれから延々と洞窟内を歩き回ったんだけど、目当てのものは中々見つからなかった。暗いから見逃してるかもしれないってことで、足元に目を凝らしながら慎重に歩いてるんだけどね。それで余計に疲れちゃったのかもしれない。


 というか、洞窟へ足を踏み入れてから結構経ったと思うんだよね。時間がかかりすぎないようにってシビルさんも言ってたことだし、そろそろ戻ったほうがいいのかも……。


「う……?」


「アルム様、どういたしました?」


「アルム、どうしたの?」


「……い、今、向こうのほうに誰かいたような……」


「「えぇっ……!?」」


 リリとケルンは驚いた声を上げたのち、まずいと思ったのかハッとした表情で口を押さえた。


「……リリ、【超音波】スキルで誰なのか調べられる?」


「できるはずです。少々お待ちください」


 リリが目を瞑って調べ始める。確か、反響定位っていうんだっけ。蝙蝠は超音波を発することで障害物との距離だけでなく、その輪郭まで知ることができるんだ。まったく同じではないかもしれないけど、【超音波】スキルってことで卓越した技術を持つリリならそれが可能なはず。


「……確かに、います。でも、妙でございます」


「「妙……?」」


「位置はなんとなく把握できるのですが、物体の輪郭をまったく感じないのです。動物なのか人間なのかも判別できません。まるで、見えない何かに阻害されているかのように……」


「「……」」


 僕はケルンと戸惑った顔を見合わせる。一体何者なんだろう? 蝙蝠たちの超音波で阻害されているせいだろうか?


「そこに誰かいるの!?」


 思い切って僕は声を上げてみることにした。しばらく僕の声が反響しただけで、何も起きない。


「ア、アルム様」


「リリ、どうかした……?」


「まるで瞬間移動したみたいに消えてしまいました……」


「「えぇっ……!?」」


 じゃあ、もうそこには誰もいないってことなのか。それでもまた来るかもしれないってことで、恐る恐るその先へ向かうと、何かが足元に落ちているのがわかった。


「……こ、これは……」


 白い花だ。それも、どこかで見た覚えがある花だった。


「綺麗な花でございますね……」


「これ、リリにあげるよ」


「本当でございますか? ありがとうございます、アルム様……」


「……」


 リリがさも愛おしそうに花を受け取るのを見て、僕はちょっと可愛いと思ってしまった。僕ってやつは、何考えてるんだか……。


「僕にも欲しいなあ?」


「「うっ……」」


 ケルンにニヤニヤした顔で迫られて、僕たちは離れ合った。まったく……って、あ、あれは……。


 白い花が落ちていた場所から2メートルほど先に、薬草のようなものが生えているのが見えたんだ。


「リリ、ケルン……遂に見つけた、あれだよ、あれがきっと、例の薬草だ……」


「「おおっ!」」


 三人で薬草の元へ行き、採取する。葉っぱや茎の形状といい、依頼で書かれていた内容と完全に一致した特徴を持っていたので間違いない。


「これで依頼達成でございますね。帰りましょう、アルム様」


「アルム、帰ろう!」


「……ナナ」


「ん、アルム、ナナって誰?」


「ケルン様、お静かにっ」


 僕が涙を拭ったところを見られちゃったせいか、リリが気を遣ってくれたみたいだ。


 わかったんだ。ナナがここまで誘導してくれたってことに。ダメだな、もう泣かないって心の中で決めていたのに、涙が止まらないや……。


 ナナ、君は僕が加護を貰ったことで、役目を終えて遠くへ行ってしまったんだと思っていた。でも、そうじゃなかった。


 君は僕と遊べなくなった代わりに、困ったときがあったら助けようと思って近くで見守ってくれていたんだ。そしてそれこそが【活】の加護の効果の一種だったんだ。今まで気づいてあげられなくて、本当にごめんね。


 そして、これからもどこかで僕たちを見守っていてほしい。ナナ、君のことは絶対に忘れない……。

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外れスキル【回転】が神様の加護で化けたので、伝説の冒険者を目指すことにします。 名無し @nanasi774

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