カニスアミークス

不意打ちでロドルフォさんの激怒を目の当たりにしてしまったから身がすくんでしまったが震えてる場合ではない


あんな形相でロドルフォさんはマット達の名前を呼びながら走り出したんだ

カーネとマットと喧嘩にでもなったら…

あとを追わなきゃ


こういう時、犬の嗅覚と聴覚があって助かる

どこに向かったのか匂いで追えるし、喧騒を聞き取れる

向かった先にいたのはロドルフォさんと…


ロドルフォ「カーネ!何でお前ら自分の息子に人間という種族のこと話さねえ!」

カーネ「今までそんな余裕なかったのにどうやって話せばいいのよ!周りが安全かもわからない洞穴で生まれた子供達に恐怖を植え付けろっていうの!?」


ロドルフォ「あいつらが知らぬ間に人間と関わり合って、尻尾振ってたらどうすんだ!?また利用されて、裏切られて、捨てられて…お前だって人間に何されそうになったか忘れたか!?」


まずいお互いヒートアップしてる…止めなきゃ…

シアン「ま、まって」

カーネ「忘れるわけないじゃない!!」


俺が最も苦手とするもの

言い争い、喧嘩


前世の俺なら多分見て見ぬふりをしていた

関わりたくない、怒りという感情がとても苦手だったから

だけど今回の喧嘩になっている相手の一人は自分の母親であるカーネ

苦手とかそんなこと言ってる場合じゃない


シアン「待ってくださいおじさん…」

ロドルフォ「あ!?」

シアン「お母さんは…悪くありません…!」

カーネ「シアン…?」


シアン「みんなにとても辛い過去があるのは...気づいてました...だけど聞けなかった…いや、聞かなかった…」


シアン「昔、ほんの少しだけ人間の話が出たときお母さんすぐに反応して、話を逸らしてました。そのあと震えてて…だからその話は嫌な話なんだって思って...いつか話してくれる日までその話題には触れないようにしてた...んです」


俺は気づいていた…人間がカーネに酷いことをしようとしていたんだと

でもカーネのトラウマを刺激したくなかった


それにもうひとつ…

俺は元々は人間で転生者だという事実を隠していること

みんなと同じ姿をしているのに、みんなとは違う『魂』を持っていて

人間が犬の獣人に対して酷いことをしたかもしれないということを

受け入れるのが怖かったから…


だから聞けなかった…いや、聞きたくなかったんだ


シアン「だからお母さんを責めるのは、やめて…ください…」

ロドルフォ「ぐっ…」


さっきまですごい形相だったけど子供が間に入ってきて言い返してきたもんだから

頭をガリガリ掻きながらバツの悪そうな顔をしている


ロドルフォ「悪りぃ…頭に血が上っちまってバカみてえな真似した…スマン。カーネ」

と頭を下げてカーネに謝る

その姿を見てこの人は怖いところもあるけど悪い人じゃないんだなって思えた


カーネ「私こそごめん。ここにきてからにでも説明すればよかったのにシアンには他のことを優先してやってほしくって…」

カーネも頭を下げている

よかった喧嘩は収まりそうだ…


マット「俺からも謝らせてほしい。息子の成長に期待して俺たちの暗い過去は教えずにいた。すまないロドルフォ」


え?マットいつからいたの?


ロドルフォ「なんだてめえ!?何時からいやがった!?」

カーネ「もおおおお!びっくりするからやめてよ!」


マット「あはは、シアンがカーネの前に立つところぐらいからだよ」

ロドルフォ「何だおめえ覗いてたのか?やらしいな」

カーネ「マットのすけべ!」


大人二人して何言ってんの…?


マット「いや、俺も間に入ろうと思ったんだけどシアンが代わりにやってくれたからさ。俺の出る幕じゃないなって」


いやでてきてよお父さん


ロドルフォ「全く、てめえら二人息子のこと溺愛しすぎだろ…」


愛されてる自覚はある

さっきまで喧嘩してて冷や汗かいてたのに今は恥ずかしくて体が熱くなってきた


「喧嘩は終わったか?」

後ろから声をかけられ振り向くとさっきのドワーフがいた


ドワーフ「全くお主らカニスアミークスは問題ごとばっかりじゃな」


シアン「カニ?ミクス?」

聞いたコトのない単語が出てきた

マットもカーネも???って顔している


ドワーフ「何じゃお前らみんな自分たちの総称である真名まなも知らんのか?」

ロドルフォ「だから知らねえって言っただろうが!エルフが勝手につけた名前だろ?」


エルフ…エルフもいるのかこの世界は

まあドワーフがいればエルフもいるか


シアン「カニスあ…って」

ドワーフ「カニスアミークス」

シアン「そのカニスアミークスってどういう意味なんですか?」

ドワーフ「知らん」


知らないの!?


ドワーフ「さっきこやつ《ロドルフォ》が言っておったがその真名をつけたのはエルフじゃ、わしらは意味もなぜそう名付けられたのかも知らん」


ドワーフ「ただわしの祖父様の世代くらいにつけたっていうのは知っとる」


この人もそれなりに歳を重ねてると思うけどそのお祖父様の世代

ってなると100年くらい前の話かな…


カーネ「そのお祖父様の世代ってどのぐらい前なの?」

ドワーフ「1千年前くらいじゃな」


1千年前!?俺ら犬の獣人、いやカニスアミークスの寿命が35歳くらいだったっけ?

何世代前の話になるんだ…?

そりゃマット達の世代まで名前が受け継がれてこられず、知らないのも無理はないかも


ドワーフ「話が逸れたわ。さっきそこのチビシアンにも言おうとしたんだが、お前らスピッツ族も問題抱えてるならまずはみんなで話し合わんか

借りを返さんとする義理堅いとこは好きじゃが、そんなの後回しで構わんわ」


ロドルフォ「借りっぱなしは性に合わねえんだよ…」


ドワーフ「はっ!男らしいつもりかもしれんが仲間内の問題から目を逸らしとるだけじゃろうが生意気な子犬め」

ロドルフォ「あぁ!?」

マット「耳が痛いです」

カーネ「ねえ?それってどっちの意味?ロドルフォの声がうるさいから?」

シアン「お母さん…」


ドワーフ「何にしろじゃ!まずは話あ…何じゃあ?珍しい。お前らが首突っ込んでくるなんて」

ドワーフの目線の先、そこに立っていたのは死んだような目をしていたハウンドと呼ばれる人たち


ハウンドの男「私たちもあなた達の過去の話を聞かせてほしい」

ハウンドの女「お願いします…」


こうして俺たちあの洞穴で生まれた子供達、そしてまだ名前も知らないハウンドの人たちも人間の間に何があったのか知ることになる

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任け犬の遠吠え 犬井雲之助 @Noradog1231

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