社会化

マット「ただいま…」

カーネ「お帰りなさい〜」

マットが帰ってきた。ここにきてから何日も忙しそうにしていたが

その理由というのは簡単に言えば俺たちはよそ者で助けてもらった立場だからだ


だからその恩を狩りによる食糧調達で返しているから忙しいという理由だった


シアン「おかえり。お父さん。お疲れ様」

マット「ああ、シアン…お見舞いにもっと行きたかったんだけど行けなくてごめん」

シアン「ううん。理由は聞いたから全然大丈夫だよ」


マットが家族より優先することは、結果的に家族のために行なっていることだ

だから責めることなんてできるわけもない

むしろ親が早くに他界していた俺からしてみれば、こんなに家族を大切にしている人が父親であることがただ嬉しい


シアン「僕もそろそろ怪我が完治しそうだから狩りのお手伝いしていいよね?」

狩りが好きだからじゃない。とういうか狩り自体はそんなに好きでもない

でも俺も早くみんなの役に立ちたいから早く現場復帰したい

みんな忙しそうだし、すぐにでも参加させてくれると思ったのに


カーネ「ダ〜メ〜」ソラ「だ〜め〜」


カーネとソラにダメ出しされた。ソラはカーネの真似してるだけだけど…


シアン「……何で?」

カーネ「だってシアンまた無茶しそうだし」ソラ「そうだそうだ〜!」


無茶なんてしない!なんて言っても多分信じてくれないだろうし

これも俺を心配しているからなんだろう

だが俺はみんなが狩りをしているのに…

何だかモヤモヤする…


カーネ「マットと話してたんだけど、みんなが狩りに行ってる間にシアンはこの村の人たちと仲良くなって欲しいんだよね」

シアン「え”!?」

前世でコミュ症でボッチだった俺が!?

シアン「無理無理無理無理!」


マット「無理かな?」カーネ「あの魔熊相手に囮になるくらい勇気あるのに」

ソラ「変なの〜?」


家族総出で無茶振りしてくるんだけど!


シアン「だってなんて話しかけたらいいかわからないし!」

カーネ「普通に世間話から始めれば大丈夫!」

世間話ってこっちの世界の世間を何も知らないんだけど!?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



翌日、俺は一人で村をぶらぶら歩いている

誰かと一緒なら話しかける勇気もあるのだが、学生時代のクラスメイトにすら

あまり話しかけたことがなかった俺が

いきなり知らない誰かと世間話なんてできるわけ…


カーネ『これも社会化ってやつだよ!』


社会化…人間は社会に馴染むために義務教育を受けるための期間と設備が設けられているが、犬の世界には存在しない

だから幼少期から人間社会と犬の社会両方に馴染ませるため外に出て人や車、他の犬になれる経験を積ませましょうねというのが俺がいた世界での言葉だったが

この世界にも同じ言葉があるのか…カーネはどこでそういうの知ってるんだろう?



困った…

誰か話しかけやすそうな人はいないかと周りを見渡すが

この前と変わらずまだ意気消沈しているハウンドと呼ばれる人たちしかいない


あれは…話しかけるのは無理だ…俺がそうだったからわかる

多分話しかけても会話が続かない。だって話したくないだろうから…


誰かいないかな…

あたりを見渡すと村の向こうの方から誰かが走ってる

いや、誰かじゃない二人いる…二人?

あ、まずいと思った時にはもう遅かった

顔はいいのに残念なくらいアホっぽい顔した銀と黒の髪の男女にロックオンされ

ララルカ「「シアンじゃ〜〜〜ん!!」」と飛びつかれて捕まった


まだ怪我完治してないから飛びつくのやめて欲しいんですけど…


ララ「何してんの?」シアン「え、えっと散歩というか…」

ルカ「散歩!?俺たちもする〜」

シアン「え?あ、はい…」

まずい…咄嗟のことではいと答えたが同行することになった

というか両側から肩組まないで…

自分が陰キャならこの二人は底なしの陽キャすぎる…


あれ?でも逆にこの人たちなら村の人たちと話せるのか?


シアン「あ、あの…」

ララルカ「「あ?」」 顔が良いせいか、ふとした時の表情怖…


シアン「お二人は、この村のことどのくらい知ってるんですか?」

ララ「てか、その喋り方やめねえ?」ルカ「歳そんな変わんねえぞ〜?」

シアン「え?あ、はい」


ララ「ハイじゃなくて〜?」ルカ「うんだろ〜?」

シアン「あ、うん…」


ララ「で?何だっけ?」シアン「えっと…この村のことどのくらい知ってる…の?」

ルカ「なんか聞いた気がしたけど……忘れた!」

忘れちゃったのかぁ…シベリアンハスキーってみんなこんな感じなの…?

陽気というか天然というか…


ララ「あ、けどあれだよドワーフ」ルカ「ああ、そうだドワーフ」

シアン「?」ドワーフがどうしたんだろう


ララ「この村、元々はドワーフだけの村だったんだって」

ルカ「だからドワーフに話聞けばいいんじゃね?」


ドワーフだけの村だった?じゃあハウンドもテリアもみんな別の場所から来たのか?

じゃあとりあえずドワーフを探せばいいかと二人を見ると


ルカ「あ、やばい」ララ「逃げなきゃ」

シアン「え?」

ルカ「じゃあな〜シアン!」ララ「また遊ぼうね〜」


二人はどこかに走って行ってしまった

本当台風みたいな双子だ


さて、ドワーフに話を聞けばいいと言われたが…

ドワーフって頑固で偏屈なのが結構定番な気がするからなぁ…

それに前に見かけた時は忙しそうにしてたし…

「おい、ミニマット」

どうやって話しかければいいのか…お酒好きなイメージあるからお酒を差し入れに?

いやお酒のありかを知らないじゃん俺!


「おい、ミニマット!無視すんな!」

シアン「うわぁあ!!」

いきなり襟首もたれて持ち上げられたから死ぬほど驚いた


ロドルフォ「ミニマット、ララとルカここにいつまでいた?」

ロドルフォさんか…ミニマットってマットの小さい時に似てるからそう呼ぶのか

てっきりお風呂上がりに使う足拭きマットみたいだからその呼び名は…


そういえば初めて会った時もそんなこと言ってたな…


シアン「こ、こんにちは…さっきまでいましたよ」

ロドルフォ「どのくらい前だ?」

シアン「5分くらい前です…」

ロドルフォ「チッ…あのバカ二人が…狩りサボりやがりやがって」


ああ…ララルカが言っていた『逃げなきゃ』ってそういうことか…


ロドルフォ「んで?お前は何やってんだ?ミニマット」

シアン「あの…シアンです」

ロドルフォ「あ?ああ!そういや名前聞いてなかったわ!ワリィワリィ!」


ロドルフォ「んで何やってんだよシアン?」

シアン「えっと…この村の人たちと仲良くなるために話を聞こうかなって…」

ロドルフォ「あ〜?そういやカーネがお前には狩り参加させねえとか言ってたな

社会化がどうとか〜って」

そういう話は周りにしっかりしてるんだなぁ…


ロドルフォ「でも話しかけてねえじゃねえかよ〜?お前もサボりか?」

シアン「いや、あの…ドワーフさんたちになんて話しかけたらいいか…」

ロドルフォ「あ?そんなの簡単じゃねえか?」

シアン「え?」

また襟首を持たれて持ち上げられる


そして


ロドルフォ「おい、ひげジジイども。シアンが話があるってよ」

ドワーフたちの前まで引きづりまわされてしまった…


この人初めて会った時から豪快な人だと思ったけど、それよりも強引すぎる…

まだなんて話しかけたらいいか整理してないのに…


ドワーフ「何じゃあ立ち耳犬?なん用か?」

ロドルフォ「俺じゃなくて用があるのはこっちのちっこいのだ」


待って!話進めないで!まだ何から聞けばいいか考えてないから!


ドワーフ「こいつも小さいのぉそういう種族か?」

ロドルフォ「いや、こいつはテリアの奴らとは違ってただのガキだ」

ドワーフ「ガキ?ガキが一体何聞きたいんじゃ?というかこのくらいの子供はどこまで知ってるんじゃ?」

ロドルフォ「あ〜確かに…お前どこまで知ってんだ?」


どこまで?と言われると困ってしまう

そう言われると何も知らないに近いから


シアン「えっと…」

ロドルフォ「ちょっと待て、お前もしかして人間のクソどものせいでこういう状況になってるって話聞いてねえのか?」

シアン「人間の…クソども…?」

ロドルフォ「あぁ?」


あ、やばい…とてつもない怒りのオーラを感じ身がすくんでしまう

人間と何かあったのはあの洞穴の頃から何となく察してはいた

だけどその詳細までは聞いてなかった

だから疑問符をつけて答えてしまった


それが不味かった


ロドルフォ「シアン…お前…マットたちから詳しく聞かされてねえんだな?」

怖い…

毛という毛が逆立って牙が見えている

あの魔熊と同じくらいの怒り

あの魔熊は生存競争だったから怒りはわかる

だけどこの人の怒りはどこからきてるのかがわからなかった。だから


シアン「……はい。何も聞いてないです…」


あまりの恐怖に正直に答えてしまった


ロドルフォ「マット!!!!!カーネ!!!!!!てめえらどこにいる!!!!!」


耳が痛くなるくらい大きな声で二人の名前を吠え走り出すロドルフォ

それを見て俺はとんでもないことを答えてしまったのかもしれないと震えていた

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