怪我で動けないのでしばらくは退屈だ…と思っていた

だけど全然そんなことはなかった


マコト「シアンあの時のお肉返して!」バン!


一時間後〜


ソラ「お兄ちゃん遊んで〜!」バン!


一時間後〜


カーネ「ご飯の時間だよ〜」バン!


一時間後〜


マコト「シアン〜ご飯残してたらちょうだい〜」バン



元気系ワンコが定期的に襲来してくる


シアン「ねえシュウ?なんであの人たちって静かに扉開けてくれないんだろう?」

シュウ「……?」


今はシュウとゆっくりおしゃべりしている

と言ってもシュウはあんまりおしゃべりするタイプではないけど…

シュウといるのは居心地が良くて好きだ


シアン「シュウは村の様子は見てきた?」

シュウ「……」コクン 無言で頭を縦に振っている

シアン「どんな村なの?ここは?」

シュウ「……」シュウは無言で難しい顔をしている

いや、いつも難しい顔をしてはいるが…


シュウ「よくわからない…」

珍しく話したなと思ったらよくわからないときた


シアン「よくわからないかぁ…」

ここに入院してから三日は経った。意識が戻った日以来マットは顔を見せてくれるけどゆっくりお話しする時間はないらしくほとんど話せていない


色々聞きたいことがたくさんあるんだけど忙しいなら仕方ないかぁ…


シュウ「…ごめんね」

シアン「ううん、大丈夫だよ」

大型犬男子がしょんぼりしてしまった


話を変えようとした時、ガチャリと扉が開き


トラ「おう、シュウそろそろいくぞ」

トラさんがシュウを迎えに来たみたいだ


シュウは立ち上がり扉の前で振り返り手を振って出ていく

トラ「悪りいなシアン。シュウを借りてくぜ。早く元気になれよ」

シアン「あ…はい」


シュウたちが今から何をしにいくのか聞けば良かった


いろんな人が部屋を出たり入ったりしていたから退屈じゃないと思ってたけど

いきなり退屈になってしまった

せっかくだしなんでこの世界に来たのか思い返してみる


俺は雨の中、トラックに轢かれそうになっていた女の子を助けようとしたが

助けるどころか一緒に轢かれてしまった

目が覚めると定番の展開、女神らしき存在から異世界転生の話をされた


あの女神はなんて言っていた?


『これはゲーム。女神たちを楽しませるための娯楽』

『楽しませたものには約束された来世が与えられます』


とか何とか言っていたけど説明不足すぎてよくわからない

俺以外にも転生者がいると言っていたけど転移者もいるみたいじゃないか


そういえば、転移者がいるっていていたあの商人…

確かリオンって名乗っていたあの人は

何で俺たちのことをここに導くようなことをしてくれたんだろう…

というかあの人は何者なんだろう…


ああ、もうわからないことばかりで混乱してきた

一旦寝て頭冷やそう

と布団を被ろうとしたら唐突に扉が勢いよく開いた


???「へへへ、お前か?シアンってやつは」

???「何だよまだチビ助じゃん」


シアン「え…?誰?誰ですか?」

二人の男女がニヤニヤしながら近づいてくる


耳と尻尾があるから同じ犬の獣人なんだろうけど

こんな人たちは知らない


毛の色は黒髪と銀色のツートンカラー

女の人の目が黄色で、男の人の目が青い


俺が今まで見た中でも一番の美男美女だと思う

だけどそんな人たちが俺に何のようが…まさかこの人たちも転生者…


黄色の瞳の美女「ロドおじから聞いたんんだよ」

青色の瞳の美男「お前、おもしれーやつらしいな」


ロドおじっていうのは確かこの前来た豪快な人?

おもしれーやつっていうのが意味がわからない


シアン「ぼ、僕は面白いやつではないと思いますが…ところであなたたちは…」


黄色の瞳の美女「あたしの名前はララ」

青色の瞳の美男「俺の名前はルカ」


ララ「私たちはシベリアンハスキー族の双子だよ」

ルカ「よろしく…なああああああああ!」


と二人揃って飛びかかってきた

シアン「………え?」

こっちは怪我している上にそんな突拍子もないことをされるなんて全く予測できず

なす術もなく


頬擦りされている


何?この?何なの?

何でこの美男美女は俺の両頬を挟んで頬擦りしてんの?

俺と一緒に暮らしていた仲間たちもスキンシップは多い方だと思ったけど

こんな過剰なの?さっき知り合ってこんなことする?


ルカ「へへへ、お前いい匂いすんな」

ララ「ほんとだ!もっと嗅がせろ」

シアン「や、やめて!」

ララ「いいじゃん同じ立ち耳仲間だろ?」


立ち耳仲間ってなに!?

というか前世でこんな美男美女と関わり合ったことないのに

胸元を開かれて匂いクンクンされるなんて恥ずかしくて死にそう…

この人たちは何目的なの…


しばらくクンクンされていたと思うが唐突に二人の動きが止まり

耳をピクピク動かしながら外を見ている。


いや、ほんとこの二人じっとしてると顔がすごい美形

さっきまでヒャッハーな顔芸していたとは思えないくらい…


ララ「なんか外で面白そうなことしてる」

ルカ「行こうぜララ」

シアン「え?」


二人は興味が外に移ったらしくどたどたと外に駆け出して行った

衣服を乱され一人残され呆然としている俺と散乱してるあの人たちの毛


カーネ「シアン〜よるごは……」

入れ替わりで入ってきたカーネに

カーネ「シアン…怪我してるくせに女の子連れ込んだの…?」

ととんでもない誤解をされた



結局マットとゆっくり話ができる日は一日もないまま歩けるまで回復してしまった

マットが説明しようとしていたから俺もカーネも気を使ってあの日できなかった話はしなかったがどうやらこっちにきてから相当忙しいらしい


だから今日は快調祝いとしてカーネと村を歩きながら

ここがどういう場所なのか聞くことにした


カーネ「ふふ〜今日はシアンとデートね〜」

シアン「親と出かけることをデートとは言わないんじゃない?」

カーネ「いいます〜!ああ〜シアンってマットの若い頃に似てるから若い時思い出すわ〜」

そろそろ年齢が7歳にしかならない人の口から若い頃…?

カーネは見た目も若いしなんか不思議な会話だな…


カーネ「シアンってばお父さんっ子であの洞穴生活の時、マットにばっかりくっついていたじゃない?だから今日、お母さん楽しい〜」

うっ…そんなつもりはなかったんだけどカーネに寂しい思いさせていたのか?

女の人って前世でほぼ関わり合ってないから無意識に避けていたのかも…

いや、カーネを女性として見てるわけではないんだけど…


シアン「ごめんねお母さん」

カーネ「あはは、すぐしょんぼりする〜シアンは優しいんだから」


優しいっていうのとはちょっと違うと思う、けどまあいいか


カーネ「あ、みて!あれがドワーフって人たち!」

俺が想像してた通りの、髭が生えて背が低くガタイがいい男たちがいた

そしてその少し後ろにはドワーフとそんなに背丈は変わらない人たち

尻尾と耳があるから俺たちと同じ犬の獣人なんだろうだけどちょっと違うのが


シアン「あの後ろの人たち俺たちと耳の形が違うね」

先日ララとルカが俺のことを同じ立ち耳仲間って言ってたけど

あの人の耳は途中から垂れてる


カーネ「あの人たちはテリアっていう種族らしいの

だけど全員同じ耳の形してなくて、私たちと同じで立ち耳の人たちもいるよ」


有名どころのヨークシャーテリア(以下ヨーキー)やジャックラッセルテリアは見たことがある


ヨーキーは確か立ち耳だった、ジャックラッセルは確か半立ち耳だったかな?

耳で種族が判別できるわけでもないのか


カーネ「私たちスピッツ種族はみんな立ち耳だけどいろんな耳の人がいるんだね」


確かにあの洞穴で一緒に過ごしてきたみんなは立ち耳の仲間しかいなかった

犬の耳の形に意味があるか、なんて気にしたことなかったから

今になってどんな耳の形があったのか気になってきた


カーネ「えーと…あ、いた。あそこ机に顎乗せてやる気なさそうにしてる人いるでしょ?あの垂れ耳の人がハウンドなんだって!セント…ハウンドとか言ってたかな?」


セントハウンド?聞いたことない種類だ


それにしてもなんだろうこの村。シュウが言っていた通りだ

俺もこの村のことを聞かれたらよくわからないと答えてしまうだろう

耳が垂れたハウンドと呼ばれている人たちは突っ伏していたり

木にもたれかかって寝ていたりする


それに比べてさっきドワーフと一緒に歩いていたテリアの人たちはツルハシをもったり籠を背負って忙しそうにしていた

マットだってゆっくりお話しする時間もない

忙しそうにしている人と、そうじゃない人たちの差がすごい


普通に考えたらハウンドの人たちが怠け者のようなイメージを持つかもしれない

だけど俺にはそうは思えない

それは…あの人たちの表情に見覚えがあるから…

朝、鏡の前でよく見ていた『何のために生きているのかよくわからない』

俺の表情に酷似していたから…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る